第112話 平民の首都

 貴族連合軍との戦いが終わり、ガインの都市へと凱旋した私達は、住民達からの拍手喝采を浴びながら駐屯地へと帰還した。

 私は、投降者には宿屋を無料開放すると約束していたが、貴族連合軍に所属していた傭兵の全員が投降したため、とてもではないが宿屋の数が足りなかった。

 そこで、急遽、全ての学校を臨時休校とし、それらの施設を無料開放していたが、それでも数が足りず、住民の希望者を募り、補助金を出して民家に宿泊させてもらっていた。

 それからしばらくは戦勝記念の宴が執り行われたが、1日や2日では、その熱狂は収まらなかった。

 そして、ようやく戦勝気分が抜けてきた頃、エストと官僚達と私は、戦争の後処理に頭を抱える事になる。

 投降者達に今後の身の振り方を聞き取り調査してみると、ほぼ全員が移住を希望したためである。

「どうせ故郷に帰っても、お貴族様から報復されるのがオチなんで」

 そう言って、この都市での生活を希望した。

 しかし、この人数をガイン警備隊で雇用するのは、どう考えても無理なのは明白であった。だからと言って他の傭兵団に移籍しようにも、やはり、人数が多すぎた。

 そこで、受刑者用の職業訓練所を一時閉鎖し、そこの講師や、学校の先生達、さらには職人を急遽募集して、各地に臨時の職業訓練所を開設した。

 学校施設だけではとても場所が足りなかったため、空き倉庫等も活用していた。

 私は、宿屋の約束が守れなかったことを悔い、また、希望とは違う職種へと職業を斡旋することを申し訳なく思い、移住希望者達の宿泊所を一つ一つ回り、謝罪していった。

 しかし、私は誰からも非難されなかった。皆、人数が多すぎる事は承知していたためである。

 それよりもむしろ、「ガインの都市の初代様」が自分達に頭を下げて回っている事を高く評価してくれて、恐縮される事も多かった。

 そうやって、ガインの都市の新たな住人になった人々は、日々、新しい職業への訓練に邁進していた。

 そんな彼らは、他のどの土地とも異なり、平民が自由を謳歌できるこの地の様子にとても驚いていた。噂では聞いていたようだが、この都市では官僚ですら平民であり、お貴族様は、領主とその家族しかいない事実に衝撃を受けたらしい。

 また、この頃には、チョサクケンの考え方も少しずつ広まってきたようで、権利を保護された作家等の芸術家により、後に平民文化と呼ばれる文化が花開き始めていた。

 それらの様子を見た移住者の中の誰かが、この都市の事を「ガイン自由都市」と呼び始め、その新たな名称が瞬く間に国中の平民達に広まっていった。

 そのため、王国の平民達の間では、

「王都はお貴族様の首都。ガイン自由都市は平民の首都」

 と、広く言われるようになっていった。

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