第12話
君が落ちたところは僕がいる屋上からは死角だった。急いで君のもとへ飛び出した。僕が下に着く頃には君の周りにはたくさんの人が集まっていて、君の姿を確認することは出来なかった。
しばらくしてから聞こえたパトカーのサイレン音。たくさんの人をかき分けて彼女をビニールシートで隠す警察官。その後やってくる救急車のサイレン音。担架を運ぶ救急隊員。たくさんの人の騒ぎ声。顔をおおって泣きじゃくる人。彼女の名前を呼ぶ声。驚きで放心している人。僕はその様子を少し離れたところから眺めていた。その時見たもの、聞いたもの全てが嘘のようだった。
たくさんの人が涙を流していた。彼女の友人はもちろん、先輩や先生までも。きっと彼女と関わったことがある人みんなが泣いていたのだろう。
僕は彼女のお葬式にもお墓にも顔を出していない。きっとたくさんの人が集まったことだろう。でも、どうして行く必要がある?彼女は死んでないんだ。
僕は彼女の死体を見ていない。だから彼女は死んでいない。
(ねえ、どこに隠れているの?そろそろ出てきてもいい頃じゃない?今回は少し手間をかけすぎだよ。)
それから数日後、僕の家に郵便が届いた。
オシャレな箱の中に、ラベンダーのフラワリウムと手紙、そして僕が彼女にあげた物と色違いの海を連想させる時計が入っていた。
贈り主は、彼女だった。
(ほら、君はまだこの世界で生きている。早く姿を見せてよ。)
冬休みが終われば、また、あの花のような笑顔で微笑んでくれるよね?
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