22 屋台を君と


 今日この日、桐ノ宮高校の文化祭が開催された。

 今俺は、門の前に立っているのだが、周りは人でごった返している。他校の生徒や一般の会社員、親子連れなど様々だ。

 この学校は文化祭で有名な高校でもある為、無理もない。


 俺は瑞季と倉科さんを待っている。

 遅いなぁ。


 しばらくして瑞季が猛ダッシュでやって来た。


「お待たせー髪型のセットしてたら遅くなっちゃった。倉科さんはもうすぐ来るって」


 言われてみれば瑞季の髪型がいつもと違う。ハーフアップにして、水色の可愛いリボンで結ばれている。銀髪と水色は合っていて、映える。幼馴染みの知らない姿を今更見れて、何だか新鮮だった。そんな瑞季はいつもより可愛い。それに何の意味があるのだろうか。


「瑞季可愛いな」


「ありがと」

「倉科さん来ないし、先写真撮っちゃう?」


「そうだな」


 装飾係の子たちが作ってくれた看板。その前に俺と瑞季は並ぶ。他の子たちもここで写真を撮っていた。


「はい、チーズ!」


 カシャッ。


 良く撮れたかな。確認してみる。

 瑞季が笑ってない。そして俺の顔がぶれている。こりゃダメだな。


「何これ、ウケる笑」


「笑うなよ。そう言う瑞季こそ笑えてない」


「笑おうとしても笑えないんだもん。しょうがないじゃん」


「今笑えてるぞ」


 瑞季は今大爆笑している。今撮ったら最高の一枚が撮れると思うのは俺だけだろうか。


「じゃあ二枚目撮るか」


「ツーショットだね!」


「ばっ。ツーショットとか言うなよ、照れるだろ」


 こういう時、倉科さんなら「一条くん可愛い」と言うだろう。倉科さんはからかい上手だ。

 そうして二枚目が撮れた。今回は良さそうだ。


 写真を撮り終えて一息吐いて、「倉科さんともツーショット撮りたいな」と呟いたのと同時、倉科さんの姿が見えた。


「倉科さん」


「記念撮影?」


「理玖がツーショット撮りたいんだって」


「ばっ、馬鹿、そういう事言うなよ」


「本当なんでしょ?」


 倉科さんと俺は照れて顔が真っ赤だ。初々しい二人を見て瑞季はふっと微笑んだ。


「じゃ、まずは三人で撮ろうか」


 倉科さんが機転を利かせてそう提案した。少し緊張が収まった気がした。


 カシャッ。


 最高の素敵な一枚だ。記念に一枚持って帰りたい。


 そして、この時が来た。

 倉科さんとのツーショットだ。


「私撮るよ」と瑞季がカメラを持った。


「もっと寄って」


「そんなに寄るの!?」


 密着し過ぎて倉科さんと肩がぶつかる。というか体が重なっている。温かい体温と柔らかい感触が伝わってきた。心臓がどくんどくんと鳴っている。


「そうそう! そんな感じ」


 最初、瑞季に弄ばれているのかな、と思った。密着させてドキドキさせようと。でも違うみたいだ。


「笑って、笑って~」


 最大限笑顔を心がけたのだが……結果は最悪だった。


 俺と倉科さんはピースをして、


 カシャッ。


 写真を撮った。確認してみたら表情が硬く笑っていなかった。どうしても緊張で顔がひきつってしまう。


「表情硬いよ。笑ってって言ったじゃん」


「しょうがないよ、だって……」


 倉科さんはもじもじしている。


「もう一回撮る?」


「「それは無理!」」


 心臓がどうにかなってしまいそうだ。



 一行は校舎へと向かった。そこで瑞季とは別れた。


「私はこの二人と回るから」


 そう華と凛を指し示す。


「いぇーい」


「じゃあ瑞季をよろしくな」


「うん。理玖くんもお気をつけて」


「じゃ、行こっか」


 倉科さんは屋台の方へと歩き出した。瑞季らに姿が見えなくなるまで、手を振った。


 手を振る事に夢中だった俺は気づかなかった。


「どこから回ろっか、倉科さ――ん?」


 倉科さんは俺の前から消えていた。急いで彼女を追う。彼女はチョコバナナの屋台に並んでいた。


「待って!」


「ねえ、見て見て。いっぱい美味しそうなものあるよ。沢山食べれて幸せっ! お金には余裕あるんだ~うふふ」


 今日の倉科さんはハイテンションだった。そんな彼女を見てると少し嬉しくなる。


「あ、ごめんね。一人ではしゃぎまくっちゃって。一条くんの分も買ってあげるよ」


「俺、お金持ってるよ」


「いいの! 私が奢るから!」


 彼女がチョコバナナを買ってくれた。

 空いてるスペースに行き、食べる。何故か俺はチョコバナナを食べる倉科さんの口元に目がいってしまった。エロい。不覚にもチョコバナナを食べる倉科さんがエロいと思ってしまった。それは俺がふしだらだからだろうか。いやいや、口元ばかり見てるのがいけないんだ。平常心を何とか取り戻そうとする。


「どうしたの? 私の方ばっかり見て。全然進んでないけど」


 こんな所で貴方の食べる姿に色気を感じました、なんて言えるわけがない。

 と、あることに気づいた。


「チョコ付いてるよ」


 さらっと倉科さんの口に付いたチョコを手で拭き取る。


「あ……ご、ごめんなさいっ」


「いいよ、気にしなくて」


「そ、それより、早く食べて。せっかく奢ったんだから!」


 焦った口調で一気に捲し立てる倉科さん。相当恥ずかしかったようだ。


 それからチョコバナナを食べ終え、ワッフルにハッシュドポテト、わたあめ等を食べた。もうお腹いっぱいで昼飯を食べれるかが心配だ。


 倉科さんの両手にはわたあめがある。彼女の食べっぷりに驚きと心配がこみ上げた。そんなに食べて大丈夫?


「倉科さん、物買おう、物」


「うん!」


 そうして、シャボン玉とネックレスを新たに買った。


 早速、シャボン玉で遊び始める倉科さん。それに俺も付き合う。

 大きなグラウンドでシャボン玉を飛ばした。秋の空に鮮やかにシャボン玉が飛んで、それはとても綺麗だった。太陽の光がシャボン玉を反射して輝かせる。


 そして彼女は、無邪気にシャボン玉で遊んでいた。童心に返ったように。いつもは大人びている彼女が今は子供らしくて、可愛かった。


「ねえ、見て見て。すごい高く飛んだよ!」


「そうだね。天まで届きそうだ」


「あっ、消えちゃった……!」


 一瞬にして倉科さんは悲しそうな表情になった。表情豊かで実に人間らしい。


「もうお昼ご飯の時間だな」


 彼女と遊んでいたらあっという間に時間が過ぎてしまった。午後には係の仕事であるカフェ運営がある為、急がなければいけない。


「ワッフル!」


「お菓子系はダメだ」


「えー」


 しゅんとしてしまった。倉科さんは俯いて泣きそうな顔をしている。


「ハッシュドポテトならいいよ」


「ほ、ほんと!?」


 今日の彼女は喜怒哀楽が激しい。


 俺はたこ焼きと焼きそばを買った。二人で分ける感じだ。倉科さんが一人分買ってしまうと食べ過ぎになってしまうので、俺が止めた。


 階段の上で食べる事にした。ベンチや食堂、カフェテリアの椅子などは満席だった。だから仕方なく、だ。けれども、それはそれでいいのかもしれない。


「じゃあ、食べるぞー」


「いただきます」


 あれ? 彼女はハッシュドポテトしか食べてない。そして今にも食べ終わりそうだ。そうだ! 分けるんだ。


「倉科さん、焼きそばとたこ焼きいるもんね。分けるよ」

「あ! 箸!」


 箸は一本しかない。その場合、口つけ――つまり間接キスになってしまう。倉科さんにはこんな俺なんかと申し訳ないだろう。


「箸取ってくるよ」


「行かないで」


 シャツの袖をきゅっと掴まれた。


「わ、私、一条くんとなら間接キスしてもいいもん」


「な、なんか言ったか?」


「私、この箸で食べたい」


「え……そうか」


 さすがに彼女の意見を押しきり、反対する事は出来なかった。倉科さんは焼きそばをもぐもぐと食べていた。気づけば俺より食べていた。

 焼きそばは完食し、たこ焼きが残った。


「たこ焼きも食べる」


 そう言う倉科さんに楊枝ようじを渡した。


「あーん、して」


 彼女は口を大きく開けた。その口に楊枝で突き刺したたこ焼きを入れた。


「熱いよ」と俺が言った。


「あひゅい、あつっ」


 ううーと悶絶しながらも食べていた。熱そうに涙目になっている姿も可愛くていとおしかった。


「もうそろそろカフェの準備に行かないとな」


「そだね」


 彼女が立ち上がろうと前屈みになった瞬間、事件は起きた。


「あ、ああっ」


 首にかかっていたネックレスのビーズが階段に引っ掛かり、取れて散らかってしまったのだ。


 早く拾わないと。

 誰もがそう思った。


 この階段の下までに転がったビーズを拾うのは大変だろう。


「先、行ってていいよ」


「え、でも……」

「私のせいなんだし」


「倉科さんのせいじゃないよ。それにほら、今日は主役なんだし、早く行って」


 俺は倉科さんを早く行くよう促し、落ちたビーズを拾った。


 ***


「ありがとう、一条くん。一条くんはとっても優しいんだね」


 彼は私の為に落ちたビーズを全て拾ってくれた。彼はとっても優しかった。少し前に芽生えた恋心が今日のことでまた少し成長した気が、した。








 

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