12 体育のペア
朝、瑞季が来るのを待っていた。そういや、小学校の頃は集団登校だったから俺はそっちに合わせてたっけ。そんな懐かしい思い出を掘り起こしていた。瑞季が俺を避ける理由が分かってよかった。嫌われてないってだけでも一安心だ。でも、何で瑞季をいじめるんだろう。いじめられやすい性格かもしれないけど、いじめていい理由にはならない。あの強気な態度が癪に触るのかな。小学校の時もあいつはいじめられていた。
そんな時、瑞季がやってきた。
「おはよー」
案外、元気そうでホッとした。
「おはよう」
「あのさ、今度の週末猫カフェいかない? 猫好きなんでしょ?」
「好きだけど……それってデートってこと?」
「何喋ってるの? 理玖くん離れしようってこの前話したじゃん」
理玖くん離れって何?
親離れ的な?
「おい。もうこいつに干渉するな。お願いだから瑞季とは関わらないでくれ。瑞季嫌がってる」
「は? 何、理玖くん彼氏
「瑞季ちゃんが嫌がってるとかどうでもいいし。ただ冷たい生意気な態度が癪に触るだけ。それにこんな冷たい幼馴染みいらないでしょ? うちらは瑞季ちゃんの為に矯正してあげてるの」
「矯正? ひとまず瑞季はお前らに悪い事してないだろ。やめてやってくれ」
「もう喧嘩しないで。私のことは大丈夫だから。体育の準備しなきゃ」
そう、今日は体育の日だった。瑞季とはペアになれないだろうな、と薄々勘づいていた。
「ほら、瑞季ちゃんも大丈夫って言ってるじゃん。行こう、凛。また理玖くんと話したら許さないから」
「ちょっと待て。お前らとはもっと話がしたい。今度しっかり話そう」
二人はえー、という風に口をひん曲げ逃げるように消えていった。
もう瑞季とは何も話せない。
ただHRが過ぎるのを待った。
そして迎えた体育の授業。一同はまず最初に体育館に集まった。今日のメニューはバレーボールと二人三脚らしい。
「各自、二人ペアになれー」
先生が呼び掛ける。俺はこういうの苦手だ。ボッチ常連です。
ダメ元で瑞季に声をかける。
声をかける前に捕まっていた。
「私、この二人とペアになるから。じゃあね、ボッチ常連さん。ボッチだなんて可哀想に……」
あームカつく!! 瑞季だって前までボッチだったくせに。てか、いじめてる人の所行っても嬉しそうだな。平気ぶってるのだろう。それに三人ペアとかいいのか?
俺は一人余った。困ったなー。
周りを見てもペアになってる子ばかり。瑞季がいなくなったのは大きい。とてつもない孤独感に襲われた。
そんな時、一人の巨乳で髪の長い美人が近づいてきた。
「一条くん、一緒になろう」
よく見てみると倉科さんも一人だった。あの人気者の倉科さんが一人なんて珍しいと思うが、敷居が高すぎて自分と一緒になるなんて釣り合わないと思われ、声を掛けづらいのだ。だから、一人になりやすい。
ここはyesと言うべきか……
「え、あの僕でいいの? いや、僕で良ければ。ペアになりましょう」
「じゃあ決まりね。あと敬語になってるよ! よろしくね」
「はい……」
敬語直ってないなーと倉科さんは地面を見つめた。周りから歓声が飛び交う。おおぉーという声、いいなーと羨む声、あの陰キャボッチと? と蔑む声。
俺は歓声すら聞き流し、授業に集中した。
そして準備運動を始めた。
学校一の美少女と一緒だなんて、緊張するなー
まずはジャンプから。
1、2、3、4!
俺は真っ直ぐ前を向いてジャンプしていたのだが、ふと隣の倉科さんを見た。揺れてる。たゆんたゆんな胸が上下に揺れていた。見入ってしまった。体操着姿の美しい倉科さんとその胸に。これじゃあ、家庭科の時と同じように怒られるよ。それに良い匂いがした。ダメだ、全然準備運動どころじゃねー倉科さんが美しすぎるからいつまででも見ていられる。
「次は柔軟だね。硬くなった一条くんの体を私がほぐしてあげる」
普通の眼差しで何を言ってるんだ?
性的な事を考えていたせいで日常会話までもが変な意味に捉えてしまう。
まずは前屈だ。スムーズに事が進んだ。
次に。
「足開いてー」
倉科さんの指示に従い、足を開いた。
「押すねー」
近い。距離が近い。良い匂いがより近くに感じた。背中から伝わる温かい体温。そして吐息。そのどれもが俺を興奮させる。って、大事なモノが当たってる気がするのですが。柔らかな感触が押し当てられる。ドキッとした。反射的に振り返った。
「どうしたの? 一条くん」
「いやーなんていうか……当たってr」
「何が?」
「何でもないです」
倉科さんはちょっぴり怒り、さっきより力強めで俺の背中を押した。
「いたたたたた」
「もっと強くする?」
「このくらいの強さが丁度い――」
「痛い!」
そんなこんなで、いつもよりえっちな準備運動が終わった。
次はバレーボールだ。
ボールを用意し、早速始めた。俺は体力には自信あるから、運動神経抜群な倉科さんとでも釣り合うだろう。
バレーボールを投げる手をして、力強く投げた。
「はいっ!」
すると倉科さんも受け取ってくれた。
「えいっ!」
倉科さん、こんな掛け声するんだ。意外。けど可愛い。
それからもう30ラリーはしただろう。さすがに疲れてきた。
「終わりませんね」
「そうね」
「もうやめていいかな」
「やめたら一条くんの負けだよ」
それを言われたら終わらせられない。俺と倉科さんの気が逸れるまで、続いた。そんな中、気が逸れる出来事が起きた。
「あれ、佐渡さんじゃない?」
長いラリーを続けても倉科さんは余裕な顔をしている。その言葉に反応し、倉科さんの視線の先を追うと。瑞季が女子二人組にボールを投げつけられていた。瑞季は頭を抱えている。もうバレーボールの勝負どころじゃなくなっていた。
「そうだね。助けに行こうか……」
「大丈夫かな」
倉科さんまでもが心配そうな顔をしている。
見過ごすわけにもいかなかったので、先生に報告した。解決したわけじゃないが、ボールを投げつけられる事態は治まった。
それからはもう授業に集中できなかった。瑞季が心配で。
今度はグラウンドに行った。二人三脚をするのだ。倉科さんの足首と自分の足首を紐でくっつけた。足が当たってるというだけで胸が高鳴る。倉科さんの肩とも当たる。俺は倉科さんと肩を組んだ。そして、差し出された彼女の手を、繋いだ。距離感が近いから緊張する。心臓が口から飛び出そうだ。
「1、2! 1、2!」
自分のペースで前に一歩ずつ進んだ。
倉科さんの息も落ち着いている。
瑞季が酷い目に遭わされてからというもの、瑞季を目で追っていた。瑞季たちのグループは三人四脚をしていた。すごく見るのが珍しい。一度も見た事がなかった。そして瑞季が真ん中なのだ。何か意味はあるのか。
そんな事を気にしていたら事件が起きた。
「危ないっ!」
ばたん。どさっ。
一言で言えば、転んだ。
盛大に
転んだのはさっきの柔軟より痛かった。膝や色んな所から血が出ている。
「大丈夫? 倉科さん」
俺は自分の心配より倉科さんの心配をした。
「大丈夫。でもどうやって立ち上がろうか」
「それは俺にも分からない」
そんな所に先生が来て、手を貸してもらい、立ち上がった。
そうして、平和だったのか難ありだったのか分からない体育の授業が終わった。俺的には倉科さんのそばにいられてとても幸せだった。だけど、瑞季があんな目に遭ってるし、転んだし、山あり谷ありだ。
怪我をした俺たちは水道のある所まで行った。
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