第23話 悔し涙

 最近の教員の不祥事のニュースを見聞きするにつけ、私は「先生運」がよかったのか?と思いかけたら、とんでもないヤツがいたことを思いだした。名前も覚えているが、イニシャルにするのも嫌なヤツだ。何が許せないかと言うと、要は、教員の立場をかさにきて、弱い者いじめをするのだ。

「内申書に書くぞ。」と脅すのは日常茶飯事。一番、許せないのは、テストの平均点が著しく悪かったと怒られて、クラス全員、学校の椅子の上に正座をさせられて、長々と説教をされたことだ。今から思えば、大柄な男子生徒が、よくもまあ、あの学校の教室によくある、小さな椅子の上で正座ができたものだと思う。幸い、説教の間に、しびれがきれたり、椅子から落ちる生徒はいなかった。

 私は、もともと暗記が得意ではない。特に社会科は分野に関係なく、ひたすら覚えることが多かった。多少なりとも興味があった歴史以外は、苦行だった。それでも、高校受験が目の前にあるので、私も他の生徒達も、自分なりに頑張っていたと思う。たかがテストの成績が悪いくらいで、なぜ、こうも理不尽なめにあわねばならないのだ、別に人として恥ずかしいことをしたわけではない……とは言えなかった。

 それもこれも、内申書などというものが存在するからだ。自分の知らないところで、必要以上に悪く書かれたら……それで、高校受験に失敗したら……そう、中学生は「大人」なのだ。周りの大人達が思っている以上に。当時の私にできたのは、悔し涙を流しながら、ヤツを睨みつけることだけだった。背の低い私は一番前の端の席だったので、ヤツが私に気づいたのは、ひとしきり、私達に怒鳴りつけてからだった。

「あ~その……まあ〜頑張った人もいました……まあね……頑張った人もね……」

もごもごと言いながらヤツは職員室に引き上げて行った。ヤツがわざとらしく言い訳をしたのは、私が高校教師の娘だと知っていたからだ。わずらわしい親が出てきたら困るとでも思ったのだろう。あいにく、父親は仕事で忙しく、父娘の会話などなかったのだが。

 最近になって、本当の意味で、社会科の勉強をやり直すことが大事だと思うようになった。この世界には自分達の国とは異なる国があり、それぞれの歴史があり、それぞれの社会には培われてきた仕組みがある。教科書や参考書に書かれたことなど、ほんの一部にすぎない。今からでも、少しでも視野を広げて学ぶことが、ヤツに対する意趣返しだと思っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

回想列車 簪ぴあの @kanzashipiano

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ