第85話 Fランクの油断

 今日もザーザーと雨が降っている……。


 そんな中日本式〈生活魔法〉で体の周囲に結界を張り、一切濡れる事もなく街のメインストリートを歩いています。

 

 あ、おはようございます、タイシです。


 雨が止んでたら皆と狩りにいく予定だったのですが……雨が止む事もなく……というかむしろ強くなっている。


 すべてが予定通りにはいかないのが現実って物だよね。


 という事で『五色戦隊』の皆をダンジョンに送り出し、俺は情報収集をしに冒険者ギルドへと向かっている所だ。



 ちなみにこの冒険者街なんだが、メインストリートというか大通りは石畳だったり砂利がまかれているので、雨でも足元は大丈夫だったりする。


 ちょいと横道を見ると土の道路なんでグッチャグチャだったりするのだけどね……。


 まぁ俺は基本的に大通り以外は歩かないから関係ないんだけども。

 俺が大通りしか歩かないのには理由があって、危ない事に遭遇しないためというのが一番でかい。


 当たり前だが、今時点の俺は弱い。


 つまり、冒険者としてそれなりに仕事をしてきた相手には、格の高さやスキルの質で負けている可能性が高いんだよな。


 なので薄暗い道とか人の目が少ない場所には行かないようにしている。

 ちなみに……公爵家の護衛が何処かにいる可能性も考えてシンプルな行動を心がけてもいる。


 ほら、急に道を曲がったりしたら護衛もやりづらいじゃん?


 ……たぶんある程度護衛はついてきていたりするとは思うんだけど……今の俺には悪意や敵意のない存在を感知するスキルがないからなぁ……。


 というか……護衛いるよね?


 自分で言うのもなんだが、それなりの価値を示しているし、これからも公爵家にはレシピを売ったりテイムカードの売買を押し付けたりとかする予定で、大きな利益を得られる存在だとは思っているんだけど……。


 ちょっと心配になってきたので歩みを止め、周囲をキョロキョロと見回すが……。


 雨の中でフード付きローブを被った通行人やら、農民なのか蓑っぽい物……藁で作られた外套? みたいなのを着て足早に歩いていたりする人を見かけるくらいで……うん、分からん。


 次にスキルオーブを買うのなら、斥候系のスキルでもいいかもな……。


 まだ世界にスキルが馴染んでないだけで、そういうたぐいの日本式スキルもいっぱい持っているのだけど、今使いたい訳だしな。


 ココに斥候系スキルオーブの値段を聞く事を忘れないように考えながら、冒険者ギルドへの歩みを再開させる。


 ……。


 ……。


 ――


 冒険者ギルドの入口近くにやってきた。

 ギルドの入口はかなり横幅が広い構造になっていて、複数人所か複数のパーティが余裕ですれ違う事が出来る。


 今も朝から依頼を確認していたのか、雨除け用のフード付きローブを着た冒険者三人のパーティらしき人達がギルドから出て来た所だ。


 俺は邪魔にならないように入口の端っこの方を通ろうと彼らを避け……。


 ジャバッ、ザーザーと雨が俺の体を打ちつける。


 俺はサイドステップを踏み、近くにいた冒険者から離れて身構えるが……彼らは立ち止まる事もなく足早に歩いていった……。


 しばらくの間、周囲の状況を確認している間も雨が俺を濡らしていく……っと、〈生活魔法〉の雨除け結界が再度使えるようになった……。


 安心してギルドの建物の中に入る……前に濡れた服や髪を〈生活魔法〉で乾かしてしまう事にした。


 そんな事をしながらも考える。


 あの状況は、彼らが俺に対して敵意のような物を持っていたから〈生活魔法〉が解除されてしまったのだと思う。


 あの瞬間に攻撃がなかったって事なので、戦意ではなく敵意だと思うのだけど……うーむ……まぁ日本でも有名になればそんな事はしょっちゅうあったし、これからもあるのだろう。


 俺が日本にいた頃でも上級探索者は羨望や嫉妬の対象になっていたし、その思いが強くなれば敵意に変わったりもする。


 俺も有名になってきた事で、そういう見も知らん相手から敵意をもたれるなんて事がこれからも出て来るのだろうな……そんなに有名人が妬ましいというのならさ……『鼻笛料理人』の二つ名なんてあげるのにな……。


 服も乾いたし、ギルドに入るかね……せっかく上級賢者になってウキウキだったのに……朝から気が滅入っちまったぜ……。


 ……。


 ……。


 いつものごとくお客のいない、見習い冒険者用受付台に辿り着いた。


「ちーっすココ」


「おはようタイシさん……あれ? ちょっとご機嫌ナナメ?」


 俺の機嫌が悪いと即見抜くとは、ココさんやるねぇ……まぁさっきのは有名税だと思うから報告する事もないかもなんだが……、一応言っておくか、報連相報連相っと。


「……ついさっきちょろっと嫌な事があってな、実は――」


 そうして俺は今さっきあった事をココに説明していく。


 ……。


 ……。


「なるほどねぇ……タイシさんも二つ名と共に有名になって来てるからね……そりゃ嫉妬する人とかも出てくるよね……公爵家の後ろ盾を得ているという噂がある人を街中でどうこうする人がいるとも思えないけど、一応気をつけてね?」


 そうやって、心配そうに注意を促してくるココであった。


 嫉妬かぁ……まぁやっぱそうだよな、あいつらとすれ違う時に、チラッとフードの中に中年のおっさん顔が見えたんだけど、まったく見覚えがない相手だったしな……。


「てか一般の冒険者が俺の後ろ盾が公爵家って事を知っているのか?」


 公爵様には俺のランクが上がるまでは、あんまり外で吹聴しないようにって注意されたんだけど……。


「ああ、タイシさんはランクとか関係なく有名になってきちゃったからね……貴族の後ろ盾を得ているっぽい、という噂は公爵家の方で流しているんだって……でも何故か広まっている間に噂が変化しているみたいで、タイシさんは私の婚約者としてそうなっているって感じに……ゴニョゴニョ……」


 ああうん……ココの背後には上級貴族がいるってのは知られているみたいだし、ココの相手として噂される俺だから、噂が混じっちゃっているのか……。

 ココは優しいから改変された噂の否定をしないでくれているんだろうなぁ……それで俺の安全が買えるならって事でさ。


 それでもまぁ、ココは美人だから男性冒険者から人気がありそうだし、別の意味で嫉妬されそうだけども……。

 つまり、結局気をつけなきゃいけない事っていうと。


「夜道やひとけのない場所を一人では歩かないようにしておくよ……」


「それがいいかもね……かよわいしねタイシさんは……」


 ぐは……面と向かって弱いと言われるのはクルものがあるな……。


「いつか腕相撲でココを負かせてやるからな?」


 ココのその細くてたおやかな腕が凶器である事を俺は知っているが、いつか倒してやる。


「ふふ、いつでも相手になりますよ? 今度はお菓子を賭けましょうか?」


「……今は負けが確定しているので賭けません……これでお許しを~」


 そう言ってココに、今日の差し入れである木皿に乗せた塩煎餅を〈引き出し〉から出して渡していく。

 塩のみの味付けだが、イエローを筆頭に皆からそこそこ好評だった品ですよ?


「ありがとうタイシさん……でも、こうやってタイシさんから毎回お菓子を受け取っていると、他の受付嬢からの視線が集まっているのが分かります? ……後でお裾分けしないと……」


 ココの言葉を聞いた俺は、そっと周囲を伺うと……確かに何人か暇そうにしている受付嬢なんかがこっちを見ていた……。


 なので〈引き出し〉にまだ残しておいた塩煎餅も追加で皿に乗せておいた。


「これは甘いお菓子じゃないからそこまで人気出ないんじゃね?」


「タイシさん……これはお米……もち米を使っていますよね?」


「ああ、ちょいと高かったけど、もち米を売っているのを見かけたからね」


 冒険者街にある食材のお店が集まった市場で肉や大麦や野菜を買うのだけど、毎回出物が変わったりするから飽きないんだよねぇ……日本とは違って流通が一定じゃないから品物がどんどん入れ替わるんだろうね。


「……ちょっとってどれくらいですか?」


 ん? ココが訝し気な目つきで問いかけてくる。

 えーっと確か……。


「大麦の20倍くらいの値段だったかなぁ?」


「お高いお菓子になるじゃないですか! やっぱりタイシさんは非常識です」


「いやいや、20倍って言ってもたかがしれてるだろ? せいぜい……それ一枚で銅貨……大銅貨一枚ちょいくらいだぞ?」


「塩煎餅一枚で普通の黒パンが10個以上買えるという意味にも取れるのですが?」


 ……なるほど!


「そうともとれるな! 頭いいなココ!」


「タイシさんは、わざとそういう物言いをしているのでは? と思う事があるんです」


 ココはそういって、右手を自分の顔の前に持ってきて、指を開いたり閉じたりとワキワキニギニギさせてきた。


 待って! アイアンクローは待って!


 確かに……〈道化〉スキルの熟練度稼ぎには戯言ざれごとが一番だと思っていたりするけど!

 仕方ないねん……スキルの熟練度が上がれば基礎能力値への補正もほんの少しとはいえ上がるんだから!


「ちりも積もれば山となるって言うだろ?」


 と、言い訳をしていく俺だった、まぁこの説明でココも理解してくれるとは思うのだけど。


「意味が分かりません……タイシさんの悪ふざけが積もっていくからお仕置きして良いという事でしょうか?」


 ココが右手をさらにニギニギしだした。


 まったく通じていないだと!?


 とまぁ揶揄うのはこれくらいにして〈生活魔法〉で遮音結界を張り、俺のデメリットスキルの事をココに説明していく……。


 ……。


 ……。


「うわぁ……日本にはそんなスキルがあるんですか? 私は探索者じゃなかったので詳しくはなかったですけど、初耳ですよそれ」


 ココは遮音結界があるとはいえ、唇の動きを読まれないようにと、自分の手を開き口を隠すようにして話している。


 俺はまぁ……唇を動かさずにちょこっと口を開いたままで会話できる〈腹話術〉スキルが使えるので、問題はなかったりする。


「そりゃまぁ、デメリットのあるスキルなんて大声で喧伝したら値段が安くなっちまうだろう? だから……売り手側はそういう事は言わないよな」


「日本も闇が深いんですね……」


「そういうのは何処も同じだろ? スキルオーブだって……談合とかで値段調整はされてたりするだろ?」


「……ええ……まぁ……そうなんだろうなぁと思う事は……時たまありますけど……」


 ココの言葉の濁しぶりに、冒険者ギルドもそれに関わっているのだなと理解する。

 それか貴族や王族すら……あーやめやめ、こういう事を考えても俺の得にはならねーわ。


「この話はやめだ! えっと……そうだ、テイムカードがドロップした噂の情報収集に来たんだが……ついでに斥候系のスキルオーブとかの値段を知りたいんだが、相場とか分かるか?」


 俺は強引に話を変える事にした。


「え、ええ、えーとカードの事は一旦置いておくね? それで斥候系って言うと〈索敵〉とか〈気配感知〉とか〈罠感知〉とか?」


「ああ、そんな感じのやつだ」


「物によって違うけど……一番安い時でも〈剣術〉のスキルオーブより高いわよ?」


「え……なんで近接系スキルより高いんだ?」


 俺の予想だと脳筋なこの世界では、後衛系スキルは近接系スキルより安いと思ってたんだが……。


「……斥候系スキルってほら……冒険者よりも貴族や王族の暗部とかが欲しがるから……勿論悪党も同じくね、それに近接系スキルより産出量が少ない気がするのよねぇ? ダンジョンの性質によっても宝箱の中身は違うらしいけど……」


 産出量が少ないってのは、この世界が脳筋だからか? ってちょっと待って。


「え、スキルオーブも宝箱から手に入るの?」


 この世界の貨幣がダンジョンの宝箱から手に入るって話は前におっちゃん兵士から聞いた事があるんだが、スキルオーブもそうなのかぁ……。


「そうよ?」


 ……えーっと、日本だとダンジョンの中の倒した魔物が消えてアイテムやカードをドロップするけど……そういやレッドがダンジョン内の倒した魔物は離れると消えてなくなるって……。


 つまり離れないと倒した魔物が消えない?

 魔物から素材採取しか出来ないとなると……なるほど。


 アイテム系が宝箱からなのか……。

 よし、今回はそっち方面を調べるとしよう。


「と言う事でココさん、ダンジョンの内部のお宝状況やらを知りたいです」


「はいタイシさん、ですがいつまでも見習い受付を専有していると良くないので、調べものなら図書室に行きましょうね? また後で暇な時にお話ししましょう、ニッコリ」


 そうやって笑顔のココに追い払われる事になった。


 というか見習いの冒険者っぽい子達が、俺からちょいと離れた位置で待っていたようだ……気付かなかったよ……ごめんね?


 その見習いの子達に向けて謝罪の意味を籠めて軽く頭を下げておく。


 さて、それじゃ図書室で調べ物でもするべく、二階に行こうかね。













 side 中年冒険者


 ザーザーと雨が降る中を、フード付きのローブを身に着けた三人の冒険者が歩いている。


 三人の姿は……細かい描写を入れる程の違いはなく、ただ中年男性の冒険者三人が雨の中を歩きながら雑談していて。

 渋いイケメンでもなんでもない只の中年のおっさん達なので、誰が何を言ったかなんて興味を持たれる事もないかと思われる、そんな三人だ。


「チッ……クソが……」

「ったくお前は……新人に殺気なんて当てるなよ……」

「まったくだ、あいつ殺気にあてられたからなのか、雨除けの魔法制御を失敗してずぶ濡れになっちまってたじゃんか、可哀想に」


「あん? あいつはあの『鼻笛料理人』だぞ? いい気味じゃねぇか」

「え? あいつが『鼻笛料理人』だったのか……俺の×××ちゃんが狙っているという噂の?」

「ギルド直営のウエイトレスの半分以上が旦那として狙っているって噂のか……あいつがなぁ……制御を失敗するまでは見事な雨除けの魔法だったな……魔法使いは希少だし、うちのパーティに誘ってみるか?」


「アホぬかせ! 俺が声をかけているウエイトレスの××××に手を出しやがったんだぞあいつは!」

「俺の×××ちゃんの気を引いた奴って事だろ? 俺も反対だな!」

「……お前らのはどっちも一方通行の思いじゃねぇかよ……あの『鼻笛料理人』の方からウエイトレスに手を出したなんて噂は聞こえてこないけどな? つーか貴族の恋人ってーか婚約者がいるんだろ? ほら見習い用の受付嬢で狐獣人の……」


「……チッ……貴族の恋人が出来て後ろ盾を得たからって調子に乗りやがって……あんな美人で胸のデカい狐獣人の恋人がいるなら、他に手を出すなよなぁ……くそぅ……」

「……ムカツクからって言って、あの狐獣人には手を出しちゃ駄目だぞ……高位貴族に目をつけられたら……」

「……あの受付嬢に強引に手を出そうとしていた冒険者が、いつの間にか消えていたとかもあったよな……」


「分かってるよ! だから『鼻笛料理人』も、ちょいと脅かしただけにしといただろ!」

「まぁそうだな……それくらいなら……俺の×××ちゃんがあいつの背後から胸を当てて抱きしめながら迫ったって話があってな……勿論噂だからそこまで信じちゃいねーんだが……万が一あの立派な胸を背後から押し付けられていたかと思うと……雨に濡れるくらい構やしねぇよな!」

「……噂だけで嫉妬するなよお前ら……考えても見ろよ、あの立派な胸の×××ちゃんに背中からそれを押し付けられながら迫られたら……即結婚するだろう? つまりそうなっていないという事は?」


「……確かに! あんな凶器で攻撃されたら俺だったら即結婚して子供を三人くらい作るかもしれん!」

「×××ちゃんは俺の推しだっての! お前には××××ちゃんがいるだろう? でも確かにそんな羨ま嬉しい迫り方をされていたとしたら……すでに結婚していないとおかしいよな? ……噂に踊らされたか?」

「所詮噂だからなぁ……まぁ……『鼻笛料理人』が司書の×××××さんに手を出したら許さねぇけどな!」


「……お前、図書室の司書さん推しで会いたいからって、たまに用事もないのにわざわざ使用料を払って図書室に行っているもんな……」

「難しい本をたくさん読んでいて頭の良さそうな美人エルフさんは、さすがに高嶺の花過ぎるからやめとけっての……というかお前読み書き苦手だろうに……」

「うっせぇ! お前らの推しだって皆美人だしスタイルもいいし、高嶺の花って言うなら同じようなもんじゃねーか!」


「……」

「……」

「……」


「もうこの話はやめようぜ……」

「だな、今日はダンジョン内の宝箱探しをやめて、カードとかって奴を狙うんだろ? そっちに集中しようぜ……」

「……おっけー気を取り直して……テイムカードとかいうのを手に入れて、それが高く売れるようなら……娼婦街の……お高い方の店にいこうぜ!」


「それはいいな! 実は知り合いに聞いた話なんだが――」

「まじか! それは確かめにいかないと――」

「それならまずは金策だな! テイムカードとやらが出れば――」


 三人の中年男性な冒険者達は、最初の頃の不機嫌さは何処へやら……それはそれは元気に楽し気に会話をしながら、ダンジョン方面に向かって歩いていくのであった。

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