ウチの兄はわたしに関することのみハイスペックです

あひる隊長

第1話 兄と妹

 リーリエ・マルガーは可愛らしい普通の女の子だ。2歳年上の兄、ルドルフと良く似たフワフワした柔らかな栗色の長い髪、クルクルと良く動く榛色の目、子供らしく可愛らしい声、ちょっとお転婆な彼女は家族から溺愛されている。

 歴史だけは古い男爵家であるマルガー家は領地はあるものの、目立った産業もなく、代々名ばかりの領主が王都の木っ端役人をして賃貸住宅の家賃を払うがごとく生き長らえてきた。

 しかし、名のある冒険者をしていた祖父が、王家の危機になんだか何かをしたらしく、子爵に陞爵、その時に賜った領地(荒れ地)の山から祖父が質の良い魔石を発見しド貧乏から脱却。

一時は底辺の男爵家が急に取り上げられた事、当主が冒険者上がりと言うこともあり、どっこいどっこいの底辺貴族からは成り上がり者がなどとのやっかみを言われたりもしたが、大量に発見された魔石も借金を返すと無くなった。

結局残ったのは若干増えた耕地だけで、現在、婿養子の次期子爵、フランク(リーリエ、ルドルフの父)は昔と同じ様に王都で役人として働いている。

 



***


 「おにいたま」

 「なんだい?リリー」


 リリーとはリーリエの愛称である。2歳違いのルドルフには妹が生まれた時に『リーリエ』と発音できず、『リリ』→『リリー』となった。


「りりね?あま〜いふわふわのわちゃわちゃためたいの。」

「リリー?甘いふわふわの、ワチャワチャ?」


床に寝転がってお絵描きをしていたリーリエは突然ガバリと起き上がるとピョンピョンと跳ねながら虹色の雲のような絵を見せて母エーリカにうったえる。リーリエの横で同じように寝転がっていたルドルフもピョンっと立ち上がった。

ちなみに、エーリカは冒険者であった父親が床に寝転がるのをよく見ていたので2人の行動に違和感を感じていない...


「かあさま、あまいふわふわのくもですよ」


当たり前の様に解説するが、なぜ通じているかは分からない。

 リーリエには少し変わった所があった。ルドルフや両親に突拍子もない話をしたり、見た事もない異国料理や菓子を欲しがったりした。リーリエの謎言語を辛抱強く聞いて、噛み砕いて、これまた拙いながらに説明するルドルフの話しを聞いて探して来るのは父の役目。父は仕事柄地方に出る事も多いので、行く先々で探してみたり、王宮に来る地方出身者や他国出身者に尋ねて回ったりした。おかげで人脈が拡がったが、大抵分からずじまいのものが多かった。(そして随分食いしん坊だと思われているに違いない...)

母とルドルフは家の料理長(兼侍従兼御者兼...つまりなんでもやる...)ライナルトと、リーリエの為に謎料理の開発に力を入れているが、並々ならぬ発想力を発揮したルドルフはいつしか妹の不思議料理の開発担当になっていた。


「ふわふわでくもみたいな...あめ細工を作るとき、フワって糸みたいなのが出るときがありますよね?」

「ああ、砂糖が溶けるとそうなりますね」


ライナルトが応えると、


「でもあれはかたいから、もっとふわふわにたくさん作ろうと思ったら...」


ブツブツ何事かを呟きながら台所をウロウロして色々な砂糖を取り出して、ピタリと止まってから黙って眺めること10分...


「よしっ!」


とひと声発するとまだ小さな両手の平の間に巻き上げられたザラメが溶けだして糸を引き出す。


「なるほど!熱で溶かして風で巻き上げるんですね?」

「ルドルフちゃんすごーい!火傷しないようにね」


(旦那様とエーリカ様ご本人が魔力が多いのでルドルフ様の魔力も当たり前に思ってらっしゃるのだろうなぁ...)


発想力と記憶力、魔力に魔力操作、マルガー家にしか仕えた事のないライナルトには他の貴族の事は解らないが、ひょっとしたらうちのぼっちゃまは他所よりカシコいのではなかろうかと思う。しかし、よそから婿入りしたフランク様はぼっちゃまの事を驚かれてはいないようだし...


これがルドルフ4歳、リーリエ2歳のある日の出来事である...

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