第3話
その日も屋根を移動していたのだが……。
うん? 今日はやたらと兵士が多いね。
街を巡回している兵士が多いので、俺は兵士の動きを確かめながらゆっくりと移動する。
うーん、今日はやめとくか?
俺がそう思ったとき「いたぞ!」と兵士のひとりが声をあげる。
「うん?」
いやいや、まずい、まずい、まずい。
俺は屋根の上を走り出した。
俺を探してた? なんで?
俺はそう思ったが、数日前に助けた女の子を思い出した。
「あの野郎、助けてやったのに。密告しやがったな」
俺がそう呟きながら、屋根から屋根へと空を跳ぶ。
「待て!」
と言われても待つわけない。
死ぬ未来しか見えん。
自分のテリトリーとは違う街の北側に向かって屋根の上を逃げて、ひたすら逃げて、そして、なんとか兵士たちを巻いたのは花街の北のはずれだった。
俺が屋根の上で「ふぅ」と息を吐くと、向かいの窓にいた人族と目が合った。
「あっ!」
俺がそう言うと、ほほえんだその子が窓を開ける。
「てめぇ、この野郎。このまえは助けてやったのに密告しやがったな」
「えっ? してませんよ」
「じゃあ、なんだって兵士たちが俺のこと探してんだ」
「えっと、もしかして追われているのですか?」
女の子が聞くので、俺は「そうだ」とうなずく。すると困った顔をした女の子が室内に目をやった。
「入れてやりな。助けてもらったんだろ?」
「姉様」
女の子がそう言って「どうぞ」と場所を開けたので、俺はその部屋に足を踏み入れた。
「えっ?」
俺が声をもらすと、そのお姉さんはニヤリと笑った。
「えっ、えっと、お邪魔します」
俺が頭を下げると、お姉さんは「ウフフ」と言う。
「緊張してるのかい?」
「いやいやいや、全然緊張なんてしてねぇし、なんならばっちこいって感じだしぃ」
「そう? じゃあ、もう全部脱いじゃおうかしら」
「ぜっ、全部?」
俺が聞くと、女の子が「姉様、からかうのはやめてなにか着てください。困ってますから」と笑う。
「なっ、なに言ってんだ。困ってないよ。俺は全然困ってなんかないからね」
俺が言うと、お姉さんは「仕方ないわね」と言ってバスローブを羽織った。
俺がそれに内心で安堵していると、入り口からのぞいている子たちと目があった。
うん?
「あんたたちは、そんなところでなにしているんだい?」
お姉さんがそう言うと、入り口からのぞいていた女の子たちが入ってきた。
「姉様、この子、なに?」
「なに? なに?」
「おもしろぉい」
興味があるのはかまわんが……。
「痛い、それは耳だ。引っ張るな。そこは鼻、いやいや、脱がしてどうする?」
おいおい、お前たちは俺になにするつもりだ。
「ダメですよ。イタズラしたら、私の命の恩人なんです」
俺が助けた女の子がそう言うと、女の子たちは一度手を止めて女の子を見たが、また始めた。
「だから、やめてください」
「嫌」
「そうよ、キャシーばかりずるい」
「そうなのです」
女の子たちは否定しながら、俺の服を脱がそうとする。
「おい、おまえらはなんのつもりだ」
「なんのって?」
「姉様たちがいつもやっていることです」
「そうなのです」
おいおい。
「ばっかやろう。おまえたちにはまだ早いっての」
俺がそう言うと女の子たちは「えーっ」と言ったが、俺は「『えーっ』じゃねぇ!」とツッコミを入れる。
すると入り口からセクシーなお姉さんたちが入ってきた。
「ずいぶんとかわいいわね、ベティ姉さん」
「話したでしょ? キャシーが路地裏で助けられたって子よ」
「あぁ、キャシーの白馬の王子様ね」
セクシーなお姉さんのひとりがそう答えると、みんなで「かわいいわね」と俺を取り囲んだ。
「シャイなの?」
「でも嫌いじゃないんだろ?」
「そりゃあ、男の子だもんね」
「わかった、わかったから、そう言いながらみんなでなでまわすのはやめれ」
あぁ、そったらとこ、なでてはダメよ。ダメ、ダメ。
そんな感じで俺がセクシーなお姉さんたちになでられていると、キャシーが「もう」と言う。
「あれ? キャシーは焼いているのかい?」
「本当?」
「あんたもかわいいわね」
お姉さんたちに冷やかされてキャシーが赤くなると、ベティが「そのぐらいにしてやんな」と言う。するとセクシーなお姉さんたちは「はーい」とやめた。
ふぅ、危なかったぜ。あやうく俺のマグナムが……。
俺が汗を拭うと、入り口から今度はおばさんが入ってきた。
「あんたたち、なんの騒ぎだ?」
「あぁ、母さん。すみません」
「うん? この子は? もしかして、キャシーを救ってくれた子かい?」
「はい、どうやら兵士たちに追われているようで」
ベティがそう答えると、おばさんは眉間にシワをよせた。
「間違いなくブラッドリーの仕業だね」
「そうでしょうね」
「まったく、どうなっちゃうのかね。この街はさ」
おばさんがそう言うので、俺は「あの」と聞く。
「ブラッドリー? ってマフィアじゃないの? 悪そなやつらの親玉たちだよね」
「そうさ、だけどね。ブラッドリーのトップは領主の息子なのさ」
「えっ? 領主ってこの街の偉い人でしょ?」
「あぁ、だからやつらはまさにやりたい放題。なにをしても親が領主てんで許されるもんだから、表の法だけじゃなく裏街の決まりすら無視さね」
おばさんはそう言ってからキャシーを見た。
「最近じゃ、かわいい女の子たちをさらって好き放題やっているらしい」
おばさんがそう言うと下が騒がしくなった。
「さっそくお出ましみたいだね」
「母さん」
「ベティ、みくびるんじゃないよ。あたしが恩人を売ったりするわけないだろ? それにあたしの目が黒いうちはうちの館では好き勝手させないよ」
おばさんがそう言って部屋を出て行くと、しばらくして下で兵士たちを追い返そうとしている声が聞こえるので、俺は「なんで?」と呟いた。
「意外かい? 恩を仇で返すようじゃ、胸を張って生きられないだろ?」
「だけど、俺は……」
「それでも、あんたはキャシーの恩人だ。うちの母さんはそういう人なんだよ」
誇らしげにベティが笑うので、なんだか俺もうれしくなって笑った。
その日は遅くまで匿ってもらって、夜中に隠れ家まで帰った。
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