第26話 中隊長達と木彫りのドングリ
翌日は朝から海畑に向かう。
「おはようございます」
総士郎はリナに挨拶する。
「おはよう。今日はまず人を紹介するわ」
そう言うリナの側に男性が二人と女性が一人立っていた。
「まず、私と同じ中隊長のリカード・バールね」
「1番隊の中隊長、リカード・バールだ。よろしく」
男性の一人が総士郎に向けて自己紹介した。
歳は40手前くらいだろうか?壮年だが大柄でよく鍛え上げられた体に短く角刈りのようにした茶色い髪の真面目そうな人物だった。
「次が同じくの中隊長のカイン・ストナーね」
「3番隊の中隊長、カイン・ストナーといいます。よろしく」
もう一人の男性が自己紹介する。
歳は20くらい。長めの髪を後ろで縛っていて少し軽薄そうな印象を受ける。
「最後が、私の部下のリリアナ・ローランね」
「2番隊で小隊長をしています、リリアナ・ローランです。よろしくお願いします」
最後の女性が挨拶する。
歳は30手前くらいだろうか?ツリ目にアップにした金髪で真面目そうな印象を受けた。
「で、こっちが両断の魔法使い、ソウシロウ・セキね」
最後に総士郎自身が3人に紹介された。
「総士郎・関だ。よろしく」
なぜ自己紹介が必要なのかわからなかったので、挨拶くらいしかできない。
「警備隊の仕事にはローテーションがあって、常に私が海畑の午前を担当しているとは限らないわ。私が担当じゃない時はこの二人の中隊長のうちのどちらかが担当をしてるはずよ」
「ああ、そういうことか」
総士郎は呟く。
「ぜひ、君の力を我々にも貸して欲しい。改めてよろしく」
壮年の中隊長リカードが手を差し出した。
「こちらこそ、よろしく」
総士郎はリカードと握手をした。
「両方の中隊長には私と同じ条件で仕事をもらえるように話をつけてあるわ。それとリリアナは私がいないときのためね」
「リナ中隊長の補佐を仕事としています。リナ中隊長がいない場合は私に声をかけてください」
リリアナが軽く頭を下げた。
「わかった。世話になると思う」
総士郎も軽く頭を下げた。
それぞれの紹介を終えるとリナは
「今月、私は街の中の警備担当になってるの」
と、言ってリリアナと共に馬に乗って行ってしまった。
7日間の月ごとに警備隊の担当は変わるようだ。
で、今月の海畑の担当は先程握手したリカードらしい。
「今日はクジラが一匹だけだ。噂のリン級の風の戦斧、見学してもよろしいかな?」
そう言って付いてきたリカードの目の前で中型のクジラを縦にを真っ二つにした。
「ほー、噂には聞いていましたがこれは凄い」
と、リカードはしきりに感心していた。
陸に戻りリカードから銀貨6枚を受け取とると
「明日からも、よろしく頼む」
そう言ってもう一度握手を求められた。
「わかった。こちらこそよろしく」
それに答えて握手を交わし、警備隊の詰め所から離れた。
仕事はクジラを一匹だけだったので待ち時間もなく、早々に終ってしまった。
まだ、午前8時にもなってないくらいの時間だ。
市も半分以上がまだ準備中のようだ。
しかし、帰っても時間を持て余す気がする。
何かないか市を回ることにした。
まだ、半分ほどしか商品の並べられていない店舗で金属製の小さい置物を見つけた。
カエル、ネコ、イヌ、トリなどを模った3センチ程の小さな金属製の人形が並んでいる。
なかなか愛嬌があって可愛い感じだ。よくできている。
そして、それぞれに銅色のものと少し暗い銀色のものが並んでいた。
「これは何に使うものなんだ?」
店の設営を続けている若い青年に声をかけた。
「これは招福のお守り、置物だな。銅色の物が青銅製で銅貨25枚、銀色の物は鉛製で銅貨5枚だね。まだ並べてないけどもっと大きなものもあるゼ」
男のような喋り方だが声が高い。女の子の声だ。
総士郎に背を向けていて、ズボンを履いていたので、最初は青年かと思ったが、振り返ると少し肌の色が濃い目、短めの茶色い髪の快活な感じの女の子だった。
「手にとってもいいか?」
「いいよ。よく見ててってよ」
総士郎の問に店の女の子は気前よく答えた。
銅色のネコと銀色のネコを手に取り見比べる。材質は違うようだが大きさ、形は全く同じだ。
そして、表面は僅かだがザラザラしている。
「コレって、好きな形で作ってもらったりってできるか?例えば、花とか」
「うーん、できなくはないけど、見本を木で掘り出して持って来て貰う必要があるな。それにそのネコみたいに表面は少しだがザラザラになるな」
「形に制限はないのか?」
「あんまり細かい細工とか薄い凹凸とかは無理だね。型が作れないような複雑な構造もダメだな。あと、お代は材料費と工賃で要相談だ」
「わかった。でも、まずは木を彫る道具と彫るための木が必要なのか。売ってる場所って知ってるか?」
「彫刻用の工具と木片なら、店番しながら何か彫ろうと思って持って来てる。青銅製の方を買ってくれたら特別に貸してやるよ」
木を彫るような金属製の刃物を買えば、たぶん銀貨が何枚か飛んでいくことになる。
使うのが数回なら青銅製の置物を買ったほうが得だろう。
「若いのに商売が上手いな。じゃあ、この青銅製のネコを1つ頼む」
「まいど〜。じゃあ、こっちから店の中に入って来てくれ。そっちに道具と木片があるから、そこに座って彫ってくれ」
市の店の中に招かれる。貸してくれるというのは「この場で」という意味だったようだ。
まぁ、そうか。持ち逃げされたら大損だしな。
「アタイはセスタ、セスタ・アニティ。鍛冶の工房でこーゆー人形や飾り物、アクセサリーなんかを作ってる。ヨロシクな」
店の中に入ると店員の女の子は自己紹介をした。
「俺はソウシロウ・セキだ。よろしくたのむ」
総士郎も自己紹介を返した。
「ソウシロウ?ソウシロウってあれか?最近、話題になってる両断の魔法使いの」
「あー、、、そう呼ばれることもあるな。でも、自分から名乗ってる訳ではないぞ」
「はー、クジラでも海竜でも真っ二つのすげぇ魔法使いがお客さんか」
「今はただの客だ。あまり気にしなくていい」
そう言って座ってと言われた中サイズの樽に座った。その横の木箱に入れられた大き目の彫刻刀のような刃物で小さな木片を彫っていく。
直径1センチ、高さ4センチ程のドングリ型の形状を作る。そして、その尻の部分に穴を開けていく。単純な形なのでそれほど難しくはない。
不慣れな道具での作業だったが、単純な形のため1時間くらいで彫り上がった。
「できた、この形なら作れるか?」
「なんだこれ?これが花か?ソウシロウの彫刻が下手なだけか?」
セスタは言う。
「いや、これでいいんだ。コレを鉛で20個程作って欲しいんだが、できるか?」
「こんなもん20個も作ってどうするんだ?」
「たぶん、後でわかる。あと、できれば作業を見せて欲しいんだが頼めるか?」
「作業ってこいつを作るところをか?ダメではないけど、見て楽しいものでもないと思うぞ?」
「代金ははずむから」
「おお、それならいいぞ」
セスタは快諾した。
セスタの工房兼住居は第6区画の外周通り沿いにあるらしい。
注文のものを作る作業は今日、帰ってから行うとのことなので市への出店が終わったら教会の離れに寄ってもらい、そこからセスタの工房へ向かうことになった。
昼にまた会う約束をしてセスタと別れ、教会の離れに戻った。
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