第46話 神殿前の戦い! 近衛と死刃衆

 葵、音葉ともに神徹刀の能力は絶刀。二人はその身体能力を大きく向上させ、死刃衆に立ち向かう。


 だが死刃衆の二人も過去には近衛と戦ってきた手練れ。神徹刀を持つ武人との戦いも初めてではない。


 慈雷はその鎚を時に盾として、そして隙を見せれば一撃必殺の剛撃を葵に放つ。一方で摩鷲はその具足を用いて、蹴り技主体の体術で音葉に挑む。


「いいぞ! 女とはいえさすがは近衛! その肉、叩き潰しがいがあるというもの!」

「あなたも随分切り刻みやすそうな図体をしているわね!」


 慈雷と葵では、速さは葵に分がある。しかし大蔵地砕槌の能力は一撃粉砕。能力を開放された状態では、神徹刀といえど受ければ粉砕されてしまう。


 葵は極力神徹刀で相手の攻撃を受けない様に、かつ自身も直撃を受けない様に、常に慈雷の動きに警戒する。


(動き自体はそれほど速い訳ではないのに……! 思ったよりやりづらい! とにかくあの鎚の直撃だけは避けないと!)


 死刃衆といえば、破術士の中で最高位の戦闘力を持つ集団。楽できる相手ではないとは思っていたが、一つの失態が自分の寿命を縮めると感じ、葵は慎重になっていた。そして苦戦しているのは音葉も同じであった。


「ははは! どうしたどうした!」


 摩鷲の蹴りが音葉を襲う。流れる様な体捌きから繰り出される連続蹴り。これらに対し、音葉はしっかりと相手の動きを見切り躱していく。


 顔のすぐ側を通過する剛脚は、触れれば間違いなく自分の頭蓋を粉砕するものだったと確信する。


(正直、絶刀状態の私たちとここまで張り合える破術士がいるとは思っていませんでした……! なるほど、並の武人では厳しい相手であるのは認めましょう。しかし……!)


 自分は武人の頂点である近衛。その近衛が神徹刀を抜いて負けるなどあってはならない。


 確かに相手は過去、近衛の誅殺を躱した猛者。しかし躱しただけで、死刃衆も近衛を仕留めてはいないのだ。


(この男の体捌き、そのクセはもう掴めました。……ここで決めます!)


 摩鷲の蹴り、その合間の隙を縫う様な動きで音葉は接近し、刀を振るう。その鋭い突きは確かに摩鷲の胸元を捉えた。


「やった……!?」


 しかし、音葉の刃は摩鷲の身体を貫く事なく、ほんのわずか切っ先が埋まる程度で止まっていた。


「はははぁ! ふんっ!」


 何事も無かったかの様に繰り出された蹴りを、辛くも強硬身で強化した左腕で受け止める。大きな負傷は抑えたものの、吹き飛ばされてしまう。左腕には大きな痺れが残り、しばらく使えなさそうだと音葉は判断した。


「くっ……!」

「残念だったなぁ! 俺の身に付けるこの鋼黒薙皆具足! その能力は全身に鋼の様な強度を得る事! 知らなかったのかぁ?」


 知らなかった訳ではない。だがこれほど硬くなるのかと侮っていた事を音葉は恥じた。


「神徹刀の御力を開放しただけでは俺の肉体は傷つけられん! だが僅かとはいえその切っ先は届いたのだ、流石は近衛よ!」

(甘かった……! あの肉体を貫くには、最低でも三進金剛力は必要……!)

「そして今、貴様は金剛力が必要だと考えていよう! 果たして俺の攻撃を捌きながら、それだけの霊力が練れるかな!?」


 摩鷲はそう言うと速攻で音葉に迫る。近衛ともなれば神徹刀はそれなりに長時間使用できる。だが霊力を燃やし続けている事には変わりない。


(負担は大きいけど、やるしかない! 動き自体は見えている、後は霊力を使い切らない様に意識しながら、三進金剛力で押す!)


 動きは見えていても、当たれば致命傷である事に変わりはない。並の武人であればその攻撃を避けつつ神徹刀を開放し、さらに三進金剛力を以て相手に斬りかかるなど到底できる芸当ではない。 


 だがそれができるのが近衛。音葉は相手の猛攻をいなしつつ、再びその機会を見切る。


(今……!)


 神徹刀により向上した身体能力に加え、三進金剛力をも加えた斬撃。鋼の身体を持つ摩鷲とて致命は必至。


 そうして確実に心臓を捉えた突きを放ったところで。音葉は自分の身体が、摩鷲から離れていっているのに気付いた。


(……え? なんで、わたし、あの男から、離れて……)


 既にその手に神徹刀は無く、口からは大量の血が噴き出す。


「かふっ……! え……!?」


 ふと。自分の胸元に目をやる。そこにはぽっかりと大きな穴が空いていた。音葉は遠方より飛来した矢によって身体を撃ち貫かれ、吹き飛ばされていたのだ。


(あ……はは……。あの、とき……。お父様の、言う事を……)


 音葉の父は音葉の近衛入りを歓迎していなかった。剣の道を歩む武家に生まれた者の定めとはいえ、どこかの家に嫁に入って女としての幸せを手にしてほしいと考えていた。近衛に入る音葉に、考え直してはどうかと話していた時の事を、何故か今思い出す。


「おとはあぁぁ!」


 葵の叫び空しく、音葉は地に落ちた。そのまま起き上がる気配はない。


「金剛力を使用中、強硬身は使えない。摩鷲の鋼の身体を貫くために金剛力を使う、その瞬間を待っていた」


 慈雷、摩鷲の背後から現れたのは三人目の死刃衆、確雅。その手には大きな弓が握られていた。


「これぞ十六霊光無器が一つ、長烈武空討弓! 弦を引くのに多大な霊力と筋力を要するが、引いている時間に応じて放つ矢の貫通力を向上させる! たっぷり時間をかければこれ、この通り。近衛といえど防ぐ事はできん!」

「く……! 死刃衆は四人の集団! 二人しかいないのは妙だと思っていたのに……!」

「これで三対一だなぁ? 本来なら一対一で心行くまで死合いたいところではあるが、こちらも仕事でな。時間も限られておる。卑怯だと言ってくれるなよ?」


 それからは一方的な展開になった。死刃衆はこれまで葵たちの戦いに入ってこられなかった皇国軍兵士たちにも襲い掛かり、次々と屠っていく。葵も必至で抵抗するも、流石にまともに太刀打ちができなかった。


「ふんっ!」

「ああっ⁉︎」


 慈雷の槌に摩鷲の体術。油断すれば確雅の弓が飛ぶ。葵はとうとうまともに攻撃を受け、全身に大きな負傷を負い地に伏せてしまう。もはや立ち上がる気力も残っていなかった。


「ふん、近衛といえど一人ではどうしようもなかったようだな……」

「これ以上苦しまぬ様に止めを刺してやるとしよう……」


 倒れる葵に近づく慈雷。そこに小さい声ながら不思議と響く少女の声が飛んだ。


「……おやめなさい。あなた達の狙いは私でしょう」

「万葉……様……!」


 神殿から出て来たのは巫女装束を身に纏う月御門万葉。万葉は無表情ながらその瞳に怯えの色は無く、真っすぐに慈雷たちを見ていた。


「お……逃げ、ください……!」


 葵の言葉に万葉は耳を貸す様子を見せず、慈雷達に向かって足を進める。


「ほう……! この神気、貴様が未来視の姫、月御門万葉か!」

「なるほど、若いながらに何とも不思議な威厳を纏っておる……!」

「……これ以上の狼藉はおやめなさい。もしこのまま去るのなら、私はあなた達に大人しく付き従いましょう」

「ふむ……。若くともさすがは皇族。臣下のためにその身を捧げるとは、見上げた覚悟よ」

「良いのか、慈雷」

「構わぬ。まだ十五かそこらの少女が、血の吹きすさぶ戦場でこれだけの覚悟を見せたのだ。我らとて元は皇国民、その覚悟に応えてやってもいいだろう。……だが!」


 慈雷の槌が光り、地に落ちた葵の神徹刀に向けて勢いよく振るう。滅多な事では刃こぼれせず、折れないはずの神徹刀はボッキリと半ばから折れていた。


 さらに慈雷は摩鷲に視線で合図を送る。意図を汲んだ摩鷲は万葉に近づくと、おもむろにその腹目掛けて拳を振るった。これまで暴力とは無縁だったその細い肢体に剛腕が突き刺さる。万葉は身体を九の字に曲げながら一度空を舞い、そのまま地に落ちた。


「っ……!」

「ははは! 皇族であれその霊力は脅威だ! 変な気を起こされんよう、この程度は痛めつけておかんとなぁ!」

「きっさまあぁぁ!」


 動けない葵ではあるが、さすがに万葉に対する無礼は見逃せない。だが口しか出せない自分の非力さを強く呪った。


 まともに拳を受けた万葉は意識を手放す事もできず、その場で悶絶している。そんな万葉を慈雷は軽々と担いだ。


「主人に感謝するんだな! 弱いお前たちが助かったのは姫のおかげだ!」


 そう言い、三人はその場を去っていく。後に残されたのは、音葉を含む多くの皇国兵たちの死骸、そしてその場で己の無力を噛み締める葵であった。

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