仕事では理不尽な上司に頭を下げ、夢だった仕事からは遠ざかり、もう若くない現実だけは認めたくない。
そんな哀しきサラリーマン・常松京太郎が、ふと足を踏み入れた「スナック不二子」。
そこで待っていたのは、容赦なく下ネタを放つ謎多きママ、天然ながら鋭い香奈ちゃん、魅力的な沙希、そして妙に自信満々な常連客たちでした。
常松の心のツッコミはとにかく忙しく、少し格好をつければ必ず失敗し、女性に褒められれば舞い上がり、ライバルが現れれば子どものように対抗心を燃やす。その見栄っ張りで単純な姿が、どうしようもなく人間臭く、読み進めるほど愛おしくなっていきます。
昭和から平成を彩った音楽やテレビ、映画などの小ネタも次々と飛び出し、分かる人にはたまらない懐かしさ。会話の一つひとつが軽快で、ママの攻撃と常松の脳内ツッコミが重なるたび、まるで漫才を見ているように笑ってしまいました。
けれど、笑いの奥には、仕事に疲れた大人たちの哀愁があります。
会社では報われなくても、恋がうまくいかなくても、スナックの扉を開けば誰かが名前を呼び、くだらない会話で笑わせてくれる。格好悪さも寂しさも酒の肴に変えてしまう、そんな夜の居場所の温かさが、この物語には満ちています。
常松は格好良い英雄ではありません。
それでも、失敗し、からかわれ、恥をかきながら、懲りずにネオンの下へ戻ってくる。その姿に笑いながら、不思議と明日を生きる元気までいただきました。
火夢露 by.YUMEBOSHI-P様の、笑いと哀愁を絶妙な配合で混ぜ合わせた、実にスナッキーな酒場エンターテインメントです。