情景3 しらす小鉢
「ぁあ?先輩、なんスかそれ?」
「ん?釜揚げしらす・・・ってかお前、いま寝てたろ?」
「んぁ?別に、寝てないっすよ。」
「そうか?よだれ垂れてるぞ。」
「あっ、あぁっ?そ、そうっすか?」
「ははは。お前最近、酒弱くなったんじゃないか?」
「そうなんすかねぇ。へへ~、美味しく呑んでますよ~。」
「まぁ・・・そんならいいけどさぁ。」
「それよりさぁ先輩。よく絶滅しないっすよねぇ。」
「んぁ?なんの話だ?」
「それ・・・しらすっすよ。」
「これか?」
「はぃい。」
「絶滅・・・?」
「だってねぇ先輩。その小鉢の中に何匹います?」
「あ?あ~~・・・百はいるんじゃないか?」
「でしょ?それ『ひと口でパクリ』っすよねぇ。」
「あぁまぁ、ひと口ってこたぁ無いけど・・・まぁ、そうだなぁ。」
「ね?じゃぁ先輩、今年何回しらす食べました?」
「あぁ~?まぁ・・・十回ってことはねぇなぁ。」
「でしょ?そのたびに百匹ぐらいは食べてるんすよねぇ。」
「まぁ、そういうことになるなぁ。」
「てことはねぇ。先輩ひとりで年間何千匹か食べてるんすよねぇ。」
「あぁ・・・だぁな。」
「ね?先輩ひとりでそんだけの量で、それを日本中で食べてんすから・・・年間で一体何匹食べられてるんか、って話っすよ。」
「あ~・・・結構な量だろうな。」
「でしょっ?一億や二億じゃないっすよねぇ。」
「あぁ、そうだろうな。」
「ねっ。よく絶滅しないっすよねぇ。」
「あ~・・・そう言われると、なぁ。」
「ねぇ、そうっすよねぇっ。毎年毎年毎年毎年食ってんすよっ?」
「あぁ、まぁなぁ・・・。」
「そうなるとね先輩?もしね、もしっすよ?」
「あぁ?なんだ今度は。」
「もしね、もしっすよ?日本中の人が『今年は一切しらすを食べません』って宣言したらどうなるんっすか?」
「んぁあ?」
「だから、一年間誰一人としてしらすを食べなかったらどうなるんか、って話っすよ。」
「そりゃぁ・・・ぁあ?」
「しらすって鰯っすよねぇ。」
「あぁ、鰯の子供だなぁ。」
「でしょ?その子供がっすよ?一億や二億じゃない子供たちが全部大人の鰯になって海に溢れることになりません?」
「あ?なるか?」
「いやぁ、そもそも一億や二億じゃないかもしれないっすよ?そのすべてが海に溢れて海ん中が鰯だらけになって・・・アレっすよ、海水浴行こうもんなら海パンの中、鰯が飛び込んでくるんすよ?」
「ぃやぁお前、さすがに飛び込んではこねぇだろぉ。」
「分かんないっすよ~。タマキン
「はははっ、そりゃそうだ。」
「だからねぇ、先輩。なんでそんなに食べても絶滅しないのか、って話。」
「あ、あぁ・・・そりゃ、アレだ。程良く食べてるからだろ?絶滅しない程度に、なぁ。」
「それ、ホントっすか?」
「あ~、だってアレだろ?漁ができる期間って決まってんだろ?」
「あぁいや、そうじゃなくって。」
「あ?」
「先輩食べる時に『程良く食べよう』なんて考えてますか、って話。食べたい時食べたいだけ食べてるでしょ?」
「あぁ、そうだなぁ。」
「でしょ?誰も『程良く食べる』なんてことしてないのに、なんで絶滅しないのか、って話。ねぇ。」
「ははっ、それもそうだなぁ。なぁ、それより・・・お前なんか頼まねぇの?つまみが無ぇだろ。」
「あ?あぁん~・・・じゃぁ、すんませ~ん『焼きタラコ』ちょうだ~い。」
はいよ~。
「なぁ、タラコって・・・よく絶滅しないよな。」
「あ?先輩も案外意地悪っすね。」
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