第11夜 告鵺国について 後編 

「……なんのことでしょう?」


 詐夜子はにこやかに笑みを返す。

 しかし、晩兎には見抜かれているとわかっていても、私は嘘を突き通す。


「……詐夜子はまだ、子供なんだ。そんなこと考えなくていいはずだよ?」

「子供でも王家の姫です。そのような私情だけで動きませんよ」

「……嘘だ、詐夜子の目は、そうじゃないって言ってる」

「貴方に何がわかると?」


 圧を込めて言うと晩兎は構わず、私に反論をしてくる。


「わかるよ、君ならふさぎこんで部屋に籠っているのが、俺の知ってる君だ……なのに、傷を負ってからすぐに図書室に行ったり、中庭で魔法の訓練をしているのは確認した……他の家族たちにわからないように俺が隠蔽の魔法を使ったの、気づいてなかったの?」


 ――サイラス、気づいていた?


『たぶん、俺を可視化できたのもそこの坊ちゃんきっかけかもしれねえなぁ。だけど、こんなところで復讐をやめんの? サヨ嬢』


 ――やめるはずがないじゃない。


『だよな、もう道は踏み外したんだ。後は壊れた道をまっすぐ進むだけさ』


 ……そうね。

 頭は冷静に、言葉は冷めた声で言う。


「……だったら、どうするのですか? 晩兎兄様」

「俺は止めるよ、どんな時でも君は俺の妹だから。いつか、気づくよ。復讐の虚しさに」

「『……復讐が虚しい?』」


 二人の少女と少年は同時に言葉を発した。

 この男は、今までの私を知らないくせに。

 ただ、傍観して見てきただけのくせに。

 私を助けてくれたのは、耀昴兄様だけだったのに。


『サヨ嬢……乗るなよ』


 サイラスは落ち着いて言っているが彼の言葉の節々に怒気を感じる。 

 ……わかってる。わかっているわ。

 それでも、だとしても。


「復讐が虚しいって言えるのは、復讐されるようなひどいことをした人間は許される世の中を、腹立たしいとは思わないの? 晩兎兄様」

「……だからだよ。復讐は虚しい。悲しい、辛いことなんだ」

「私を助けてくれた家族は耀昴兄様だけよ!! 貴方なんかただ傍観してただけじゃない!!」

「……詐夜子」

「帰って!! 今すぐ!! でていって!!」


 べっとにくるまって、詐夜子は晩兎を拒否する。

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