第29話 友達を呼びました

 **騒動が起きる数日前**

  

 ルイはサウーザ城の近くの湖がお気に入りだった。時間があるときは毎日通っていた。イスに座って涼んでいるとやはり思い出すのは祖国のことばかり。父も母もルイを売ろうとしていたが、楽しい時もあった。可愛い弟もいたし、友人もいた。そしてカミノアがいた。カミノアは元気かしらと呟いた。


「カミノアは元気かな?会いたいな…水龍ってどこの湖にもいるものだと思っていたけど違うのね…それはそっか、生贄だらけになってしまうわね」

 以前に聞いた話だとカミノアは生贄にされたのだ。他の湖にも水龍がいるとすると生贄にされた罪人がたくさんいることになる。カミノアは改心したと言っていたがそんな人ばかりではないだろうと思う。


「もしかして、あの浮く原動力はカミノアかもしれない」

 そんなことを思っているとルイの前に小さな水滴が浮かんでいる。ルイはガバっと立ち上がり、かの国の仕業かと慄いた。


『僕だよ。久しぶりだね』

 水滴から声がした。聞き覚えのある穏やかな声だ。


「カミノア?」


『そうだよ。やっと僕の名前を呼んでくれた。でもどうして黙って出て行っちゃったのさ?僕は毎日ビアが来るのを待ってたんだよ』

 ルイは目の前に小さな一粒の水滴に話掛ける。

「ご、ごめん。あの時は急いでいたし…ちょっと混乱してたのよね。それにカミノアは水中なら、どこにでも来れるってその時は思っていたから」

『呼ばれてないから』

 カミノアの水滴はちょっと膨らんだ。

「え?呼ばれたら来れるの?」

『そうだよ?』

「知らなかったもん。名前を呼んだらすぐに来てくれるなんて、そんなヒーローみたいな事が出来るのなら言っといてくれる?」

『ヒーロー?でもあの国が上空にいたからでもあるんだよね。あんまり遠いと聞こえない』

「なんだ…」


『僕にだって出来る事と出来ない事が~』

「ふふ、ごめんごめん。じゃああの大きな身体はあの国にいるの?」

『今は目の前の湖に移動した』

「移動が出来るの?あの国の湖にいなくていいの?」

『別に…水がある所ならどこでもいいよ?なんで?』

「カミノアがあの国を動かしてるんじゃないかと思って」

『違うよ』

 水滴はクルクル回る。

「そうなんだ。じゃあしばらくは近くにいてくれるのね」

『ずっと、ビアのそばにいるよ』

「本当?嬉しい!ありがとう。今ちょっと大変で…もうあの国には戻りたくないの」

『うん、僕はビアといる。なにかあったらまた僕を呼んで。すぐ助けにいくから』

「ありがとう、ふふ。でもそんな場面滅多に来ないけどね」


 だが、その時はすぐに訪れた。ルイはフロアで第一王子に気が付いた時にカミノアを呼んだ。





「カミノアが来てくれて助かったわ。危機一髪だったもの」

『ほんとだね。もっと早く僕を呼ばないからだよ』

「だって王子がいるなんて思わないじゃない」

『で?これからどうするの?』

「湖の中から移動しようかと…カミノア連れてってくれる?」

『僕はいいけどルイは人間だから長く冷たい湖にいると冷えて死んじゃうよ?』

 ルイは身体全体に膜を張っているが、さすがに冷えてきた。

「とりあえず、近くの街まで連れてって」

『知らないよ!死なないでよ』


 カミノアは水龍になり、ルイを乗せた。そのままルイを身体に沈め、湖を驀進した。カミノアの中は以外と暖かくルイは寝落ちしてしまった。


 王都の近くの街に着いたのは二十分ほどだったが、フロアで飲み込まれたときは顔しか膜を張らなかった為、陸に戻り私物を取り戻す時には水を飛ばし乾かしたが身体は冷えたままだった。

 ルイはその街の宿で休むことにした。長く水の中にいた事で身体が冷えてしまい、疲れもあったのか宿に着いてそうそうに熱が出て倒れてしまった。カミノアは水滴になりルイの近くに寄り添った。





 騒動の数日後、サウーザ城の周辺はようやく落ち着きを取り戻すことが出来た頃


「兄上、あの水の化け物はルイ殿を助けたのかな?」

「はあ、そうだろうな。ルイ殿の唯一の私物の鞄がなくなっているとメイドたちが騒いていた」

「そっか、じゃあ逃げられたんだね。よかった」

「ああ、たぶんな。うちの城は無茶苦茶だけどな」

「それにしても、あの化け物なんだろう。なにかの魔法かな?」

 カインは顎に手をのせ考える。

「さあな、あの使者団にでも聞くさ」

 シオンは破壊された城を見ながらため息を吐いた。


 しかしシオンはタールが騒動の中いなくなったことを忘れていた。

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