第23話
「いやー、あの時の店長はマジで怖ったね!」
店内の控え室で主人公が大袈裟に両手を広げながら語ると、彩佳が呆れたような顔で腕を組んだ。
「にーや帰って来た時、顔真っ青だったもんね」
「いやいや、俺は歴戦の冒険者ですよ? ほら、僕の顔色が変わったのは、あれよ、寒かったからだって!」
そうなのだ、決して店長の笑顔の怖さに負けたわけではない。
給料据え置き、喜んで!なんて思ってたわけではない。
「その割には、あとから店長が来た瞬間、結衣さんの後ろに隠れてたけどね」
「おっと、それは誤解だな、彩佳。あれは結衣さんの羽がちゃんと手入れ出来てるか確認しただけで、店長とは何の関係もない!」
「はいはい、もういいってば」
結衣が苦笑いしながら手をひらひらさせて話を遮った。可愛い。
「それより、アイリンちゃんなんてぽーっとしてたじゃない。いっちゃん見て『おとぎ話の騎士さまみたい』って言ってよね、それであの瞬間動画とってたでしょ」
「えっ、それ言っちゃうんですか!?」
テーブルの端でお茶を飲んでいたアイリンが、慌てて顔を赤らめる。
「だ、だって、あの瞬間、すごくかっこよかったたから…!」
「まぁあれは惚れちゃうかもね、ちょっと凄かったもんね」
え?そうなの?
惚れちゃたの? 俺に?
…モテキ来た?
明日香さんが小声で「実際、戦闘シーンまではかっこ良かったですしね。店長から逃げてる姿さえなければ完璧でした」と漏らし、さらに全員の笑いを誘う。
あ、そうだよね。
正直あれは俺でもちょっとだけ、情けないとは思った。
思ったが、仕方いだろ、店長の笑顔めっちゃ怖かったんだから。
「でさ、結局送迎の車はどうするの?」
「ドアに傷ついただけだし、しばらくはそのままで送迎しろってさ」
そうなのだ、あのドケチ店長はなんと、あの爪痕くっきりの車でキャスト達のお出迎えをしろと仰ったのだ。
馬鹿なの?死ぬの?
あんなので、送迎したら何処のやくざの抗争だって誤解されちゃうでしょ。
「まぁそうだよね、あの後も普通に走ってたし。ちょっと目立つけどね」
「たぶん、いっちゃんが負担に思わいように気も使ったんじゃないかな?使えるんだから気にするなって」
え、そうなの?
馬鹿店長じゃなくて、優しい店長だったの?
馬鹿はおれ?
「次からはもっとを気をつけます」
控え室には再び笑い声が広がる。
緊迫した送迎中の襲撃も、こうして笑い話にできるのは、全員が無事だったからこそだ。
「よし、じゃあ次回の送迎は俺以外の誰かにお任せしようかな!」
「いや、それはダメでしょ!」
全員からの総ツッコミを受け、主人公は小さく肩をすぼめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます