第3話 デスゲイズ。子犬を飼う

 俺様は夜に目が覚めた。水を飲もうと指を鳴らし、魔法で水をコップに生み出した。


 ゴクッゴクッゴクッ


 ふーい。のどが乾いていたなぁ。さあもう少し寝るかと思ったが目が冴えてきた。

 俺様は服を整え、深夜の町に繰り出した。

 俺様が住んでいる区画は金持ちが集う場所で夜は極めて静かだ。あまりに静かすぎて不気味すぎるぐらいだ。

 

 町の通りを警備隊が歩いて行った。俺様は警備隊に職務質問などされないがまあご苦労さまといったところだ。


 この大錬金術時代になっても駅馬車はなくなっていない。古典主義もたまには良いものだ。俺様は駅馬車の御者ぎょしゃに声をかけて遠い区画の酒場まで運んでもらうことにした。


『キャンキャン』


 犬が鳴いた。


 きやがったな…。俺様は声を無視して御者に指示し、馬車は走り始めた。


 馬車は軽快に歩みを進める。うん。この感じ。久しぶりに良い気分だぜ。

 車もたいがいれるが馬車もよく揺れる。御者の腕が良いとその揺れも気持ちが良いものだ。

 今回の馬車は当たりだなと浸っていたらいつの間にやら酒場まで到着していた。

 

 俺様は御者に礼を告げて酒場の中へと入って行った。


 この区画は深夜でも酒場が営業している。あまり品が良い客はいないが、冒険者稼業で慣れ親しんだ様な場所だ。


 俺様は酒場のカウンター席に腰掛け店のオヤジに10デーレーを出した。

 オヤジは陶器のカップに酒をなみなみとぎ俺様の前に出した。


 ゴクッ


「うまい酒だなオヤジ。最近面白い話があるか?」


 店のオヤジは自分のカップにも酒を注ぎながら「そうだな。首都の近隣にまだ荒らされていない迷宮が見つかったそうだ。オーガの巣窟でなかなか先へ進めんらしい」


「オーガか。そりゃそうだな。よほどの命知らずしか行かないわけだ」


 俺様はオーガ程度では怯えたりはしないが、金品がなさそうなので白けた返事をした。


「なんでも黄金に輝くオーガがいたそうだぜ」オヤジはゴクッと酒を一気飲みした。


 ほっほう…黄金鬼ゴールドオーガか。なかなかヤバいやつがいるものだと思いながらこちらも残りの酒をゴクッと飲み干した。


 それからしばらくは何もせずただ席に座り酒場の喧騒に耳を傾けていた。

 大きなアクビが出たのでオヤジがふっと笑う。


「オヤジ。もう一杯酒を注いでくれ」

 俺様はまた10デーレーを置いた。


「酒は注いでやるがその犬はお前さんの犬かい?」


 眠たい目でオヤジが指差す方を見ると子犬が2匹席の近くに座っていた。

 俺様は眠気とめんどくささで「ああ、俺様の犬だ」と返答した。


「今度からペットは外でひもか何かで縛っておいてくれ」とオヤジに言われた。

 俺様が「承知した」と答えるとオヤジは空のカップに酒をまたなみなみと注いだ。

 俺様の隣の席に商売女が腰掛けて来たので酒をゆずり、俺様は酒場の外に出た。


『キャンキャン』

 子犬が俺様のあとをトコトコと追う。


 俺様はほろ酔い気分で子犬を抱き上げテレポートを試みた。


 テレポートが発動して俺様は自宅のマイルームまで瞬時に移動した。


「ふああぁぁ」あくびをしながら「仕方がねぇな。飼ってやるか…」


 俺様はヨタヨタとベッドまで歩き、子犬と一緒に眠りについた。



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