第三十九章 たがためのまやかし
「兄さん……」
強い力の波動を感じながら、真耶は闘技場の通路をひた走っていた。
どこかで兄が戦っている。おそらく相手は終骸で、自分の『
「無駄だよ、遠岸真耶」
呼び止めてきた声は最近何度も聞いてきた、特徴のあるだみ声だった。振り向けばそこにはローブ姿の人物がいた。
「! 『管理者』さん、兄さんの居場所を知りませんか? はぐれてしまって」
「はぐれた、だって? く、くくく、アハハハハハハハハハハハハ!」
「……なにが、可笑しいんですか?」
不気味な哄笑をまき散らす目の前のローブ姿の人物に、ゾッとしつつも真耶はいつでも武器を召喚できるように油断なく構えた。
「おっと、そう警戒してくれるなよ。僕はただこの機会に君と話がしたくてね」
「話すことなんてありません。今は一刻も早く、兄さんと合流しないと……」
「いいのかい? 世界の秘密について聞かなくても」
世界の秘密とは大きく出たものだ。しかし、この『管理者』を名乗る人物は
「知っていることがあるのなら、全て教えてください」
「ふふふ、強欲だね。物事には手順というものがある。全てという訳にはいかないが、今回君たちが戦った『支配』の
小難しい話で煙に巻かれようとしている気がするが、気になる情報はある。
「つまり、全てを偽装して自分たちの支配を続けていたということですか」
「それだけじゃあない。君たちは、都合のいい事ばかり起きすぎているとは思わなかったかな? どうして最初に訪れた街でいきなり平行世界の仲間に出会い、その因縁の続きを清算し、続けて二人目の仲間と共に国の危機を救うだなんてラッキーが続くのかな?」
早口でそうまくしたてる『管理者』の口調に感情はない。ただ淡々と機械的に事実を並べられているだけだと頭では理解できる。
けれど、そんな言い方をされてしまうと疑わざるを得ない。まるで、こうなるように誰かにすべて仕組まれていたのではないかと。
「……『管理者』さんは一体何者なのですか」
「あっはっは! 兄弟揃って素晴らしい直感。いや君の場合は素晴らしき頭脳のおかげか。まあ、僕の正体なんて実のところどうでもいいのさ。重要なのは―――」
そこでくるりと身をひるがえして『管理者』が、一枚の折りたたまれた紙を真耶の方へ投げ渡した。広げて確認してみるとそこにはいくつかの地名や国の名前と思しき単語が。どうやらこれは世界地図のようだった。
「なんでこんな物を」
「君たちは知らなければならないのさ。この〈イグニア〉という世界が何なのか、一体どうして終骸が現れ、平行世界からの来訪者が集まりつつあるのかをね」
「待ってください!」
「じゃあね、武運を祈っているよ」
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