第三十六章 虚飾の王は高らかに笑う

 世界が、塗りつぶされていく。


 瘴気が爆発的に広がる中、俺は猛烈な息苦しさに苦しみつつも思考を巡らせていた。


 邪魔者がいなくなったことで自分が動けると、そんな感じのことをアウレス王は言った。それはつまり彼が黒幕ということか。いや違う。問題は、彼のこの力はどこから来たのかということだ。


「『管理者』はなにを隠してやがるんだよ…!」

「さぁて、まずはこの国を飲み込もうか。狂え、『虚触の波海ヴァニティ』」

「!」


 溢れ出す瘴気が指向性を持って暴れ始める。


 細かな無数の塵が、周囲の建築物や大地を根こそぎ削り飛ばす。


『剣』を複数呼び出して周りに壁を突き立てどうにか防ぐが、いつまでも保てるものではない。


 呼び出した端から砕かれていく。


「くそ、どうしたら…!」

「蓮。こちらです!」

「え。リエス…?」


 観客席横の小道から、リアスがこちらに手招きをしていた。『剣』の壁を使って塵の波を受けつつ、小道に滑り込む。


「はぁ、はぁ。無事だったんだなリエス」

「ええ。お父様は…いえ、この状況はお父様の仕業なのですね?」

「わかるのかよ」

「わたくしの力は、こういう時に発揮されると聞いているのです。終わりに抗う為の力なのだと」


 終わりに抗う…。リエスにも、陽子やマリアのような力があるのだろうか。いや今はそれよりも。


「頼む、力を貸してくれ。俺はお前の親父を止めて、真耶を助けないといけない。もちろん陽子やマリア、街のみんなもだ」

「もちろんなのです。まずはこの闘技場から脱出しましょう。状況を把握しなくては」

「だな」


 こんな時に仲間がいることは心強い。


 リエスと共に小道を抜けて、闘技場の外側を目指す。出くわした破壊の塵は『剣』で防ぎ、どうにか街に抜け出た。


 街でも塵が蠢いて、建物を破壊していた。逃げ惑う人々も塵に触れた瞬間、煙のようやな消えていく。一刻も早く止めなくては。


「蓮!」


 リアスが警告を飛ばしてくると同時に、一際大きな波が大地を抉りながら突き進んでくるのが見えた。


「いい加減、鬱陶しいんだよ! 打ち砕け、"蒼天アズール"!!」


 右手に『銃』を召喚し、青い光弾を発射。塵の壁を貫き、吹き飛ばした。


「凄いのです…。それは、マリアが持っているのと同じ武器ですか?」

「似たようなもんだな。これぐらいの硬さなら破壊できるか…。よし、街のみんなをまずは助けよう!」

「ええ!」


 塵を食い止め、手分けして街の住人を避難させながら、俺はわずかな異変に気がついた。


「人の数が少ない?」

「それはそうだろう。一部の人間は『嘘』だったのだからねぇ」

「……『管理者』」


 背後からいつものダミ声を掛けられた。振り向けば、同じくいつものようにフードに顔を隠して掴みどころのない笑みだけを口元に浮かべている。


「おい、お前は何を知ってるんだ。この世界をホントに守る気があるのかよ!」

「いやはや、そのつもりだとも。だって、そうしないと僕の願いは叶わないからね」

「願い……?」


 なんて身勝手な。自分のために世界の命運を弄ぶつもりかよ。いやそれ以上に。


「俺はいいさ。けど、真耶をその願いとやらに巻き込むのは許さない」

「くは、ははは! なにを言うかと思えばね。いいや、僕だけには許されるのさ。君たち兄妹を巻き込む権利が、僕にだけはあるのだとも!」

「お前…、なにを言って……?」


 大声でそう告げる『管理者』に、怒りより先にゾッと恐怖を感じた。


 俺は、いまだにこの得体の知れない協力者のことを何一つ知らない。こいつの目的も、正体も。


 だけど、今はそれどころではないようだ。


「さぁさぁ、さぁ! 止めて見せてよ、世界の破滅を!!」

「く、そ……。絶対に後で話を聞かせてもらうからな!」


 哄笑を轟かせる『管理者』を捨て置いて、破壊の瘴気が色濃いエリアへ向かった。


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