第二十三章 王城への招待

れんー、お腹すいたんだけど」

「俺もだ。真耶まや、持ってきた弁当って…」

「さっき食べたでしょう兄さん。陽子お姉ちゃんも我慢してください。王都はもうすぐなんですから」


 気持ちのいいハイキング日和。そう言って差し支えない好天気の下、俺と真耶と陽子の三人は、リエスを送った時と同じルートを使って王都を目指していた。もちろんまた馬車を使ってだ。


 事の発端は数時間前。


 いつものように宿の大衆酒場で朝ご飯を食べていると、宿屋の主人がなにやら神妙な面持ちで手紙が来てるだなんて言いだした。


 確認してみると差出人は不明。ただ、『遠岸蓮殿、遠岸真耶殿。両名を王都王城で開かれる晩餐会に招待したい。期日は三日後。疾く参上されたし』と簡潔に記されていた。


 どういう理由で俺たち二人を名指しで呼ぶのか全く心当たりがない。そういうわけで、心配してくれた陽子も加えて三人で王都に向かっているわけだ。


「にしても、武者修行から戻ってみれば街がかなり復興して活気も取り戻してて安心したわ」

「ドミナスの支配が消えたからかもな。ヴェリトのやつも、憑き物が落ちたみたいに働いてたよ」

「兄さんたちが頑張った甲斐がありましたね。あ、城門前で検問のようです」

「っと。なら…」


 招待状に同封されていた通行手形を衛兵に見せることでそのまま王都に入れた。先日の襲撃を受けて警備が強化されているようだ。


 そういえば、あの盗賊たちは何が目的だったのかわからないままだ。ただの盗賊が王都みたいな重要拠点を襲うとは思えないが…。


「王都すっご! 見て見て蓮、店も人も数え切れないくらいよ! め、目が回りそう」

「いやお上りさんかっ。ちょっと落ち着けって、陽子」

「まずは指定された宿に行きましょう。観光はそれからでも遅くないですよ」

「そ、そうね。そうしましょ?」


 はしゃぐ陽子とは対照的に、あくまでも冷静な真耶。どっちが年上か分からなくなるな。


 招待状で指定されていたのは、俺たちの宿とは比べ物にならないほど豪華で広い部屋だった。ホテルのスイートルームと言われても納得できる。


「えぇ…。なんだか気後れするな……」

「っ、い、いや。驚くとこそこじゃないでしょ!?」

「どうしたんだよ陽子。荷物をそこに置いて、ゆっくりしようぜ。む、この布団柔らかいな」

「修学旅行かっ。そうじゃなくて、なんで三人とも同じ部屋なわけ!?」


 そりゃあ、元々は俺と真耶しか呼ばれてなかったからなぁ。こっちの都合で陽子が加わったのだから、部屋も融通してもらうわけにもいかない。


「別に問題ないだろ?」

「あ、あるわよ! こ、婚姻前の男女が同室なんてダメよっ!」

「えぇー…」


 いつの時代の風習だ。というかそんなこと言われたらこっちも変に意識してしまうから、やめて欲しい。


「安心してください、陽子お姉ちゃん。兄さんがおかしな事をしたら、私が切り落としますから」

「うん、俺は安心できないよそれ!? なにを切り落とすつもりだよ!」


 無言で微笑むな妹よ。ガチで怖い。


 そんなふうに、冗談 (?) を言い合っていると、唐突に部屋のドアがノックされた。


「失礼いたします。王城からの遣いとして参りました。皆様を一足先に城に招待せよ、と王からの命を受けて参りました」

「まだ三日も先のことなのに、気が早くないか…?」

「会えばわかる、と。王はそう仰せです」


 疑問は許さない、とにかく来いという圧を感じる。王や貴族なんて自分本位な存在だと物語なんかでは相場が決まってるが、この世界も例に漏れずか。


「なら、彼女も…陽子も一緒で構わないですか」

「王は寛大です。お許しになるでしょう」

「なら決まりだ。二人はそれで大丈夫か?」

「もちろんです」

「ええ。さっさと用を済まして観光に行きましょ」


 使者に連れられて、宿から王都へ。


 王城での催し物があるからか、行き交う人々みんなが楽しそうで活気に溢れている。平和そのものな光景を前にしていると、この晩餐会を怪しむのが悪いことな気がしてくるくらいだ。


「あのご飯屋さん、美味しそう…」

「ですねえ。後で行きましょう、陽子お姉ちゃん」


 陽子も真耶も食い意地が張りすぎでは?


「兄さん。王様が私たちになんの用だと思いますか?」

「可能性があるとすれば、ドミナスとの戦いの件でしょうか。終骸ネフィニスなんていう怪物も、国からすれば無視はできないはずですしね」

「やっぱそこだよなぁ。さすがに怒られるってことはないだろうけど……」


 自分たちが超常の力を振るったことはバレているはずだ。急に現れた怪しい連中だと拘束されても実際おかしくない。だがそれなら、わざわざ悠長に晩餐会に招くのは矛盾している。


「こちらからお入りください」


 言われるがままに正門から入城したが、門番も衛兵も咎めてこない。使者とはいえあまりにも堂々としすぎなその態度、実は偉い身分なんだろうか。


 特になにも起こらないまま王が待つという一室へ到着する。玉座とか謁見の間じゃなくこんな普通の部屋で…?


「あの、本当にここで?」

「ええ。あっていますよ。ようこそ、来てくれました。遠岸連殿、遠岸真耶殿。そして…桐立陽子殿、でしたか」


 ぎょっとする。


 振り向くと、使者だと思っていた男性が柔かな笑みを浮かべて、その深く透き通るようなあおい眼をこちらに向けていた。


「まさか……」

「あなたが王様…?」

「え、ウソ!?」

「いかにも。余はコンティーニュ国二十代目国王、アウレス=アビスペル=ディコンです。ようこそ、稀人まれびとよ」

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