第26話

 (※レナード視点)


 例の医師の事件は、自殺で処理されそうだった。

 

 しかし、私はどこか違和感を覚えていた。

 それが何かは具体的にはわからないが、なんとなく、不自然な感じがしたのだ。

 しかし、憲兵である私が、なんとなくという理由で、無駄に捜査を引き延ばすわけにはいかない。

 そこで私は、ある人物に助言をもらおうと考えた。


「これは……、おそらく自殺ではありませんね」


 そう言ったのは、私が助言を求めた人物、シェリル・パーセルだった。

 彼女は憲兵に所属している人物ではない。

 しかし、彼女とはある事件がきっかけで知り合い、以後こうして時々、彼女の知恵を借りている。

 その彼女が、ゲイブの事件の資料を見て、自殺ではないと言った。


「理由を教えてもらってもいいですか?」


 私は当然の質問をした。

 憲兵では自殺として処理する流れだったが、何か見落としがあったのかもしれない。


「確かに、ロープで首を吊ったように見えますが、少し不自然です」


「不自然ですか……」


 確かに私も不自然だとは思っていたが、具体的に何が不自然なのかは分からなかった。


「被害者の方の首を見てください」


「引っ掻き傷がありますね。首をつってから、苦しかったから暴れたのでしょう」


 私は資料にある写真を見ながら答えた。


「ええ、そうでしょうね。覚悟を持って自殺を決意しても、実行すれば、当然苦しいです。彼が抵抗したのも、わからないでもありません」


「ええ、そうですね。だったら、特に不自然ではないのでは?」


「私が不自然だと言ったのは、そこではありません。私が不自然だと思ったのは、そもそもどうして、被害者の方は首を吊ったのかという点です」


「どうしてって……、自殺するためじゃないんですか?」


「いえ、私の言い方が悪かったですね。彼はどうして、自殺の方法に、首つりという方法を選んだのでしょうか? 彼が務めている病院の棚には、たくさんの薬がありますね。飲めば簡単に死ねるような物もあります。それなのに、どうしてわざわざ苦しくなることがわかりきっている首つりをしたのでしょうか?」


「確かに……、そうですね」


 そうだ、私が感じていた違和感はそれだ。

 そこが不自然に感じていたのだ。

 彼が死んでいた場所には、たくさんの薬があった。

 それを飲む方が、首を吊るよりも簡単に死ぬことができる。


「つまりこれは、自殺に見せかけた他殺だという可能性があります」


「確かにそうですね。でも、いったい、誰がそんなことを……」


「資料を見た限りでは、一人怪しい人物がいますね」


 さすがに、そこまではわからないと思っていたが、彼女はさらりと言ってのけた。

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