第5話

 (※バレリー視点)


 あぁ、お姉さまからジョエルを奪ってから、毎日が楽しいわ。

 まあ、お父様もお母様も私の味方だから、順調にいくのは最初から分かっていたのだけれどね。

 それにしても、お姉さまも惨めだわ。

 ジョエルに捨てられて、家の中で惨めな思いをしたくないから、逃げるようにこの家から出て行った。

 タイミングよく、ほかの人と婚約できてよかったわね。


 この家で、ジョエルと私の仲を見せつけることができなかったのは、少し残念ね。

 まあ、お姉さまが私に婚約者を奪われたという事実は消えないから、それだけでもいい気分だわ……。

 それに、ジョエルはあの病院を経営しているすごい人だし、そんな彼と過ごせる時間は、本当に幸せだった。


 そしてこれからも、ずっとこの幸せが続くに違いないわ……。


     *


 (※ジョエル視点)


 また、院長のゲイブに呼び出された。

 私は、彼の病院へと向かっていた。


 まさかあの男、また私に金を借りようとしているのではないだろうな……。

 冗談ではない。

 これ以上、あの男の言うことを聞くつもりはない。

 しかし、彼は私の秘密を知っている。

 私の経営する病院は、治療が困難な難病を何度も治していると世間では言われているが、その本当の実態を、彼は知っているのだ。


 その秘密を世間に公表されることだけは、避けなければならない。

 しかし、どうやって、彼が暴露するのを防げばいいんだ?

 また金を貸せと言われて断ったら、彼はまた脅してくるに違いない。

 そうなったら私には、彼に金を払うしか手段はない。

 いったい、どうしてこんなことに……。


 病院へ到着した。

 私は、彼の部屋へ向かった。

 部屋の前に到着して、私は大きく息を吐いた。

 何を言われるかわからないが、また金を貸せと言われたら、とりあえずは断ろう。

 もしダメだったら、その時は……。

 

 私は部屋に入った。

 ゲイブは椅子に座っていて、笑顔で私を出迎えた。


「来てくださいましたか。あの、お金のことなんですけれどね……」


「ふざけるな! また金を貸す気など、私にはないぞ!」


 私は彼に怒鳴りつけた。

 やはり私に金を借りようとしていた。

 なんて奴だ。

 この私を何だと思っているんだ……。


「あ、違いますよ。この前借りたお金を、返そうと思って……」


 彼は小包を渡してきたので、私はそれを受け取った。

 中身を確認すると、この前貸した分がきちんと入っていた。

 なんだ、私の勘違いだったのか……。

 しかし、どういうことだ?

 こんなにすぐに返せるなんて、おかしい……。


「怒鳴って悪かった。しかし、なぜすぐにこんな金を用意できたんだ?」


 私は当然の質問をした。

 そして、彼から返ってきた答えは……。


「それはですね、この前貸して頂いたお金を、ギャンブルを主催している人のところへ返しに行ったんですよ。そして、もうギャンブルはしないと伝えて、帰ろうとしました。すると、せっかくだから、最後に少しやっていかないかと言われまして……、それで……」


「まさか、貴様! またギャンブルをやったのか!?」


 いったい、何を考えているんだ?

 ありえない。

 自分がどうして借金を作ってしまったのか、もう忘れたのか?

 この男の存在が、私の幸せな人生の足枷になっている。


 何とかしなければ、私まで破滅してしまうかもしれない……。

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