20話 闇反魔法封印解除

「く、黒猫、俺に何をした?」


 ワタルは自分の体が自分ではない感覚で、少しでも意識を手放してしまえば操り人形と化すだろうと感じた。


「にゃははは、ワタルはやっぱり凄いにゃ。私の仙術にここまで耐えられる人間なんて居ないにゃ」


 仙術とやらを徐々に強くしてるようで、ファンタジーで定番のサキュバスが使う誘惑チャームみたいだ。


(やべ、意識が飛ぶ)


 フラフラと意識が朦朧になり、瞳には光が失いドサッと地面に倒れ込んだ。


「ふぅ、疲れたにゃ。さすが、姫様か選んだお人にゃ。今までこんなに強い人間なんて知らないにゃ。さてと、ワタル立・つ・にゃ」


 黒猫が指示を出すと本当に糸がついた操り人形のように立ち上がった。


「ふっにゃはははっ、成功にゃ。よし、ワタルこ・っ・ち・に・来・る・にゃ」


 フラフラノソノソと人形というよりはゾンビみたいな歩き方である。


「ふむっ、本当はもっとスムーズに動くはずにゃ。それだけワ・タ・ル・が強いということだにゃ。うふふはははっ、楽しみだ━━━━っ」

「ど、どういう事か教えろ!黒猫」

「にゃにーーー、どういう事だにゃ。意識はないはず....」

「どうにか気力でもたせてるんだよ。自分の体では無いみたいで、気味悪い。早く解けや黒猫(怒)」


 黒猫はニヤリと良いこと聞いたと思わんばかりに口角をあげた。


「うふふにゃはははっ、怒られると分かって解くバカが何処にいるにゃ。ほれ、こっちに来るにゃ」


  黒猫の命令にワタルは逆らえない。徐々に黒猫の近くに寄るとワタルの首に腕を回し、ワタルと黒猫の唇が近づいて行く。


(止まれ!止まれ!やめろ!)

「むちゅー、レロレロ....」

(くっ、口が勝手に....)

「にゃふふふ、次は....手で私の胸を揉んで♪」

(くそっ、手が勝手に━━━━止まってくれ)


 ワタルの手が黒猫の胸に触れようとした瞬間、腰に携わっている刀である桜花ロウカが人化してワタルと黒猫の間に割り込み黒猫の腹を蹴った。


「にゃっふ....くっお前は桜花ロウカ、良くも邪魔を!」

「マスターの危機と感じ邪魔をしました。マスターに掛けた術を解きなさい」

「くくくくっにゃはははは、お前はバカだにゃ。側にいたなら今の仙術の効果知ってるはずにゃのににゃ♪」


 桜花ロウカが「えっ!」と声を出すが、ワタルに後ろから羽交い締めされた。


「マ、マスターお辞めに━━━━」

「にゃははははっ、本当にバカだにゃ。そいつは仙術で操つられてるにゃ」

桜花ロウカ、刀に戻・る・ん・だ・」

「ま、待って━━━━」


 ワタルが命じると桜花ロウカはプシュンと刀状態に戻り、腰に収まった。


「よくやったにゃ。━━━━ん、でも命じてないにゃ」

「くっ、ハァハァ」

「ほぉ~、最後の力を振り絞ったわけだにゃ。無駄にゃことを」

「ハァハァ、無駄ではないさ」


 胸の辺りを苦しく押さえていると━━━━


『助けてあげるよ。これで良い?あゆむ』

「あぁ、サンキューな。シズカ」

「だ、誰と喋ってるにゃ!」


 ワタルを中心にして目映い光と突風が吹きあられ、近くにいた黒猫は後ろに吹き飛び大木にドガッと当たり地面に座り込んだ。


『あゆむ、こめんね。これしか、方法がなくて....』

「仕方ないさ。もう、意識飛ぶ。あ・っ・ち・で会おう」


 ワタルは完璧に気絶し倒れ込んだ。


闇反ダーク・アンチ魔法の封印が強制的に解除されました。よって、全魔力の8割を使用致します━━━━』


 ワタルが気絶した原因は急激に魔力を8割使用したからである。

 魔力は3割切ると気絶し、2割切ると命落とす者も現れる。ワタルはギリギリのラインで助かった。皆さんも魔法を使う際は気をつけて下さいね。


「ぐへぇ、くっ、一体何が起こってるにゃ。ん、にゃにーーー、私の仙術が解けてるにゃ。にゃははははっ、全くワタルは面白いにゃ。ますます、私の物に....」


 ピタッヒャッキーン


「....動かないで頂きたい。黒猫殿」

「....お前は!吸血の奴隷ブラッド・ドール、この夜の狗め」

「ほぉー、どうやら死にたいようですね」


 黒猫に吸血の奴隷ブラッド・ドールと呼ばれた者は大きく腕を振り上げ、鋭い爪で切り裂こうと振り下ろしたとした瞬間━━━━


「冗談だにゃ」


 降参と両手を挙げた。(殺される。マジで殺される)と本能的に敵わないと察したのである。


「そう、それで良い」

「それで、何しに来たのかにゃ?」

「そこに転がってるワタルとやらを回収して来いと我が主に命令されたのだ」


 クイッと倒れてるワタルを指を指して答える。


「な、何を言って....」


 シュンっピタッ


「わ、分かったにゃ」


 吸血の奴隷ブラッド・ドールは黒猫の首筋に寸止めで爪を止めた。


「分かればよろしい。では、失礼します」


 ドプンと影が底無し沼の様にワタルと吸血の奴隷ブラッド・ドールを飲み込み消え去った。


「な、なんじゃと!黒猫よ、今ワタルは連れ去られたと申したか?それも、よりにもよって夜の狗に!」


 一目散に黒猫はフランにワタルの事を伝えたが、黒猫はだらだらと冷や汗をかいていた。

 ワタルが連れ去られた原因がワタルを自分の物にしようと仙力を使い過ぎたからであり、ワタルを仙術で操ろうとし結果として気絶させてしまったのだから、フランにバレたら殺されると緊張しまくりである。


「ワタルが奴らに遅れを取るとは思えん。黒猫、近くに居ったのじゃろう?それで、夜の狗なんかに連れて行かれたというのか!」

「あ、あいつらは奇襲が得意なのにゃ」


 ドキドキと心臓が口から出そうである。


「まぁ、場所分かっておるのじゃ。行くのは....行くのは本当に釈然しないが仕方ないかの」


 話が終盤に差し掛かり、黒猫が安堵しかけた瞬間、フランが黒猫の肩を然り気無くポンと叩くと黒猫は悪寒を感じる。


(あ、これは後で殺られるパターンだにゃ)



 ━━━━━精神と魂の狭間━━━━━


「あぁ、やっぱりここか。さて、シズカはどこかな?」


 シズカを探しに行こうとした瞬間、目の前が真っ暗になった。どうやら、目を誰かに塞がれたようだ。まぁ、犯人は一人しか居ないけど━━━━━


「だ~れだ!」

「え~、誰かな?う~ん、シズカかい?」


 ぶら下がってるからなのか目が痛くなってきた。


「あったり~」


 正解すると離してくれたが、目の周りが痣が出来ておりパンダみたいだ。まぁ~、ここなら問題ないだろう。


「今日は直ぐに見つけられて良かったよ。今回も夢魔バクが徘徊してるから」


 やべ~、シズカに会わなかったら、命の危機だったかもしれない。


「ありがとう」

「??何でお礼を言うの?あゆむが気絶したのはワタシのせいなのに」

「仕方ないさ。あれしか方法無かったんだから。それに....」


 シズカの頭を右手でポンポンと撫でながら、左手の掌を上に向けると黒い靄もやが立ち上ってた。


「新しい....いや、封印されし力が使用可能になったんだ。感謝すれど恨みはないさ」

「うわぁ、凄いね。これなら、夢魔バクにも勝てるかもね」


 いやいや、さすがに無理だから!あれに遭遇したら普通は死ぬからね!シズカが見た目と違って異常に強いんだからね!


「強制的な方法だったけど、一回封印解除されてしまえば、向こうでは普通に使えると思うよ?」


 毎回使う度に倒れていちゃ割に合わないだろう。


「それよりも....」


 シズカが右手を前に差し出すと━━━━━


「ん、あれを私も食べたい!あのプルプルで黄色い....」


 あぁ、きっとプリンだろう。フランとセツナが食べてところを見たらしい。


「はぁ~、しょうがないな。ほらよ、特別だ」


 あの時、フランとセツナに食べさせたプリンよりも豪華なプリン・ア・ラ・モードを渡した。

 渡したプリン・ア・ラ・モードは底が深い皿にプリン、バニラアイス、メロンやミカン等のフルーツをてんこ盛りと豪華な中身となっている。


「ふっふぉおぉぉぉ!凄く綺麗なのよ!こ、これを全部い、いいいいいいい良いの!」


 プリン・ア・ラ・モードの前で異常にテンションが高くなって目が怖い。ワタルはコクコクと頷くしか出来なかった。


「ウマッ!何これ!想像以上だよ!プルプルでトロトロで....はぁーーー、幸せ━━━━そして、こっちは....?!冷たっ甘っ、口の中で溶けちゃった。そして、このフルーツも新鮮で絶対こっちでは食べれないよ」


 無我夢中で食べて続ける事数分間で皿の中身は空になった。

 結構特盛で作ったはずなんだけど、良くあんな小さな体に入るもんだ。


「ぺろり、美味しかったよ。夢みたいな食べ物だったよ」


 今いる場所も悪い意味で夢みたいな場所だけど....


「じゃあ、これもどうだい?」


 ワタルの手元にワンホールの生クリームで真っ白で苺、ブルーベリーやブラックベリー等のベリー尽くしのケーキを持ってた。

 もちろん、ワタル自身が作ったのだから見た目と負けず劣らず味も絶品である。


「ひやっほおぉぉおぉ!こ、こここここれも良いの?」

「そんなに慌てないで、斬ってやるから。一気に食べるとさすがな太るぞ」


 ギクッと自分の腹を摘まむと━━━━━


「そそそそそんな事ないよ。わわわわわ私が太るなんて!」


 動揺しまくりでガタガタと震えている。意地悪しすぎたかな。


「まぁ、1日ワンカットずつ食べれば大丈夫だよ。ここなら腐らないからな」

「ほ、本当!良かったよ。あ、もう時間のようだね。でも、直ぐに来る予感がするよ。じゃあ、またね♪」


 目映い光が拡がりワタルは帰っていったのであった。



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