第22話:恋に恋する恋乙女08


 市内のショッピングモールに顔を出す。図書館から移動した結果だ。


「ワンコとビッチとね……」


「ワン!」


「ビッチじゃないし!」


 三代は図書館に残留だ。


「で、何するんだ?」


「映画でも見ない?」


「いいんだが」


 一子にとってはただで見ることの出来る娯楽でもある。そう云う意味では安い買い物かもしれない。


「死なれた実感がないんだよな……」


 とは零那の言葉だ。自身が常識から遊離しているのは知っているが、


「何ゆえゴースト?」


 は疑問にも感じる。


『ゴーストリアの三因子』


 三代はそう言った。


『一つ、ゴーストは死者の記録を再現するモノ』


『二つ、ゴーストは生者の記憶を再現するモノ』


『三つ、ゴーストは対象の想念を再現するモノ』


 第一因子は死亡した一子の記録。第二因子は一子に関わった人間の記憶。


(第三因子は……)


 そこまで考えて、少し迷う。見えるから見えているのか、見たいから見えているのか。受動的か能動的か。


(三代の勘案する通りだな)


 結局其処に終始する。


 見ている映画は一般的なラブコメ。青春群像だった。中高生の間で流行っていると二葉は言っていたが、零那の琴線には触れない。無論、そんな批判を口に出すこともしないが。


「面白かったっしょ?」


「だな」


 平然と嘘をつく零那だった。モールの喫茶店で映画の話をしながら茶をしばく。


「里奈さんの演技すごいっしょ。マジ有り得んてぃー」


「あーいう恋がしたいのか?」


 零那の方に意図はないが、


「あー……」


 二葉は少し考えるように感動詞を垂れ流した。


「何か?」


「映画楽しくなかった?」


「いや、見るべき処はあったぞ?」


 とんと青春に縁のない身だが、覚えないわけではない。零那の場合は、


「期待することが絶望を覚る」


 などと前提条件が身を縛るだけだ。


「恋愛とか興味あるっしょ?」


「当たり前だ」


「一子のことは……どう思ってる?」


「どうと言われてもな」


「死んだんだよ?」


「認めるさ」


「ワン!」


 一子も吠えた。


「だしょ」


「それが?」


「幽霊って……セックスできるの?」


「知らん」


「触れない?」


「いや、触れるな」


 それが触覚にどう影響するのかは甚だ論拠に乏しいが。


「胸とか揉める?」


「わからんが……可能じゃないか?」


 頭を撫でることが出来るのだからセクハラも不可能とは言えないはずだ。


「ふぅん。そっか」


「だな」


 淡々と紅茶を飲む。

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