第20話:恋に恋する恋乙女06


 そんなこんなで市立図書館。


「よ」


 零那は三代に声をかけた。


「…………」


 本から目を離さず、


『律儀ですね』


 スマホを軽やかに操作する。ラインでのコメントだ。


「今まで通りでいいのでは?」


『一子は?』


「どう思う?」


「三代ちゃんらしい」


「ビブリオらしいってさ」


「三代また読書してんの? 楽しい?」


『無論』


「ていうか零那もしか三代に会いにきたり?」


「事情の半分程度は」


「あっしとのデートっしょ?」


『デートしてるの?』


 本から目を離さず三代のコメント。


「ま、色々ありまして」


 零那の方は付き合わされる身だ。


『よく一子が許しましたね』


「妥協と許容の結果だな」


『今も居て?』


「まぁ」


「ワン!」


 一子が嬉しそうに吠えた。


「それにしても三代ちゃんは相変わらずだね」


「だぁな」


 それは文学少女の業だ。市立図書館が心の支え。


「あっし市立図書館はあまり来ないし……」


「二葉はそうだろうな」


「何か面白い本はあるの?」


「俺より三代に聞け」


「三代?」


『ライトノベルでも読んでれば?』


 かなり適当な返事だった。


「ラノベかぁ。三代は何読んでるの?」


「…………」


 沈黙して表紙を見せる。


「人間失格。聞いたことはあるっしょ」


「そらなぁ」


 良く耳にする言葉だ。零那も読んだことはある。


「とりま」


 朝叩き起こされて面倒をかけさせられたのだ。市立図書館に着いたときには良い時間。


「飯でも食おうぜ」


 そういうことになった。場所は図書館内部の喫茶店。グリーンカレーが名物だ。


『零那と二葉のデートじゃないの?』


 とは喫茶店でグリーンカレーを食べている三代。


「既にワンコが居る時点でどうにもこうにも」


「私のせい?」


「とはいわんが」


「一子は何も食べなくて平気なの?」


「平気!」


「平気らしいぞ」


『頭の病院に行った方が……』


「三代はそう言うよな」


 実際精神神経科に通うことになっている零那ではある。


『ゴーストってどんな気分?』


「生きていた頃とさして変わらないかも」


「――とさ」


 零那もグリーンカレーを食べながらサクリと。


「結局未練だし?」


『この場合はどちらかも議論せざるを得ませんが』


「わん?」


 一子は首を傾げた。

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