生徒会選挙 003
神内功が転生したこの世界には人類と魔族が存在し、互いに対立しあっている。
だが仲間である人類同士でも――種族間で紛争が起きることもあるのだ。
魔術師、エルフ、獣人、人間。
エステリカ大陸に存在する人類側の種族は大きく四つに分かれており、争いの原因になるのは、往々にして魔術師である。
体内に魔素を有し、それを操る魔力も十分に持つ彼らは、古くから魔族との戦いで力を振るってきた。
いつからかその力は傲慢へとつながり――今では、他の種族を見下すようになってしまったのだ。
その中でも特に――人間。
魔素も魔力も持たない人間のことを「ノーマル」と侮蔑し、劣等種族だと嘲笑う。
魔術師を上位とし、エルフ、獣人、人間と、階級をつける階級主義が、エステリカ大陸では主流の考え方になっているのだ。
「――というわけで、魔法には六大属性があり、それぞれに代表的な下位魔法が存在する」
一年生が全員参加する「下位魔法学」の授業で教鞭をとるトルテンも、もちろん階級主義者である。
種族によって成績に差をつけるつもりはないが……しかし、獣人や人間に期待をしていないのは事実だ。
だが、呪いの子であるレグは別である。トルテンにとって、レグは生きていてはならない人間以下の存在だ。
そんな者が、栄誉ある学園ソロモンに入学して自分の授業を受けているなど……彼にとって最大の屈辱である
それに加えて――エルマ・フィール。
魔術師でありながら落第組に入るという選択をとった彼女に対しても――彼は嫌悪感を抱いていた。
――そうまでしてソロモンにしがみつくとは……しかも生徒会選挙に出るだと?
先程、みんなの前で毅然と自己紹介をしていたエルマを思い出し、トルテンは眉間にしわを寄せる。
「……六大属性を持つ下位魔法は、『ファイア』『レイン』『アイス』『ブロウ』『グランド』『ヒール』だ。それぞれ、火、水、氷、風、土、癒の属性を持っている。基本的に、魔術師は三つ、エルフは一つの属性を極めていくことになる……もちろん、全属性を扱えるに越したことはないがな」
トルテンは黒板にさらさらと図を描く。
「そして、下位魔法を熟練させた先に習得するのが上位魔法だ。『プロミネンス』『リバー』『ブリザード』『ストーム』『クエイク』『エルヒール』……これらの上位魔法は、お前たちが三年生になる頃には身についているだろう。まあ、既に使える者も何人かはいるようだが」
トルテンは、教室の一番前に座るエイム・フィールの顔を見る。
実技試験をトップで通過した彼は、入学段階で三つの上位魔法を使うことができるのだ。
「魔族との戦闘で要になってくるのは、やはり上位魔法の方だ。下位魔法でも対抗できないことはないが……いつ魔王軍との戦争が再開するかわからない以上、お前たちには一日でもはやく上位魔法を習得してもらう必要がある」
魔法が使えない獣人や人間も講義を聞いているにも関わらず、トルテンは魔術師やエルフにのみ話しかける。
「だが、一概に下位魔法が劣っているとは言えない。魔法は基本的に、魔素というエネルギーを、魔力という動力源で活性化させることで発動する。つまり、より多くの魔素を持ち、より質の高い魔力を持つ者が下位魔法を使えば……その威力は何倍にもなる」
実際、トルテンやイリーナなどの優れた魔術師は、下位魔法のみで並の魔族を圧倒することができる。
魔術師の優劣を分けるのは、体内に生成できる魔素の量と、魔力の質なのだ。
「加えて言えば、魔法に特定の『性質』を加える『派生魔法』も魔族との戦闘で大いに役立つ。例えば下位魔法の『ファイア』であっても、『斬撃』の『性質』を加えることで、その威力は数倍にも膨れ上がるのだ。この『派生魔法』は、二年生の段階で習得してもらうことになる」
下位魔法の種類は限られているが、魔術師の数だけ存在するのが派生魔法の特徴である。
各々が自身の魔力の適性に合わせて「性質」を選択し、魔法を強化することができるのだ。
「そして、魔法の中には『特異魔法』と呼ばれる特殊なものも存在する。これは一般的に、血統による遺伝で魔力が変質している者たちが使える魔法だ。残念ながら私は使うことができないが……エイム・フィール」
唐突に、彼はエイムの名を呼ぶ。
名前を呼ばれたエイムは、静かにその場に立ち上がった。
「彼は、フィール家に代々伝わる特異魔法を使うことができる。すまないが、みなに見せてもらってもいいか?」
「……わかりました」
エイムがそう返事をすると、彼の横に座っていた魔術師たちがいそいそと場所を移動していく。
「【
彼がそう唱えた直後――全身から光が放たれる。
放たれた光は小さく圧縮されていき、彼の身体を包み込むように纏わりついた。
そして――その姿が消える。
「っ!」
エイムに注目していた者たちは、みな一様に驚いた。
身体能力の高い獣人でさえ、彼の動き出しを捉えることができなかったのだ。
「……すっげえ」
一人、この教室内でエイムの動きを捉えることができたレグは、感嘆の声を漏らす。捉えられたと言っても、それは辛うじて目で追えている程度で………見ることに集中していなければ、一瞬のうちに見失うであろう速さだ。
大教室内を縦横無尽に飛び回る光の筋は、生徒たちの頭上を高速で移動し――元いた席に戻ってくる。
「ふむ、素晴らしい。今のが特異魔法と呼ばれるもので、六大属性のどれにも当てはまらない特別な魔法だ。ご苦労だったな、エイム」
「いえ」
クールに言って、エイムは席に座った。
そんな彼の姿を――エルマはじっと見つめる。
「さて……では、今日のところはこれくらいにしておこう。生徒会選挙の立候補者は、明日のこの時間に全体の前でスピーチをしてもらうことになる。各自準備しておくように」
それだけ言って、トルテンは教室から出ていく。
学生たちもガタガタと立ち上がり、それぞれの予定のために動き始めた。
「……なあ、明日やるスピーチって何なんだ?」
退屈そうにノートを取っていたレグは、隣で気持ちよさそうに伸びをしているシルバに尋ねる。
「ああ? お前、ほんとに何も知らねーのな……立候補者にはアピールの場として、スピーチと実技発表ってのがあるんだよ」
まず選挙の第一段階として明日スピーチが行われ、来週には実技発表、そして投票という流れになっている。
選挙期間中は、塔の前で演説をしたり校内でチラシを配ったりなど、基本的に自由に活動することができるが……しかし大方の意向は、実技発表で決まるといってもいい。
「実技ってなると……魔法が使えないエルマは、大変そうだな」
「大変なんてもんじゃねえだろうな。まあ、それを見ても物好きは票を入れるだろうけど……あいつのメンタルの強さ、ちょっとすげえわ」
「……だな」
シルバとレグは、教室を出ようとしている青い髪の在術師に目をやる。
彼女は一人、まっすぐ前を見据えながら歩いていた。
その背中には、後悔や羞恥の念は一つもない。
「……」
先程の授業で笑い者にされたことなど全く気にしていないという態度のエルマを見て、レグは思う。
やはり、彼女は強い人なんだと。
弱くて脆い神内功とは、似ても似つかない存在なんだと――改めて理解する。
「……ん?」
そんな風に、ボーっとエルマの後ろ背を眺めていた彼は気づく。
彼女が、数人の生徒に声を掛けられていることに。
その生徒たちは、肩にローブを羽織った――
魔術師だった。
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