落第魔女 001
「……はい、それでは人間のみなさんの魔具は見終わったので、次は術技と魔法を見せてもらいましょうか」
落第組にいる人間八人の魔具の試し撃ちが終わり、メンデルはそう促す。
「そうですね、最初は……」
「俺がやる! 見とけよ、レグ!」
メンデルが残った七人を順に眺めていると――シルバが声をあげた。
レグが大穴を開けたのを受け、彼の中に闘志が灯ったのだ。
――人間にいいところを持ってかれてたまるかよ!
シルバは四足歩行の獣が如く、四肢を地面につける。直後、バチバチと空気が弾ける音がして――彼の周りに光が集まっていく。
「【
全身に光を纏ったシルバが、スライムくんに向かって突撃する。
振り上げた右手から閃光が伸び――三本の爪を形作った。
「おらぁ!」
爪はスライムくんを切り裂き、勢いそのまま固い地面を穿つ。
凄まじい速度と攻撃力を持つ術技ではあるが、レグの放った正拳付きの威力に及んでいないことは、本人が一番わかっていた。
「くそっ……」
「おー、すごいな、シルバ。めちゃめちゃ光ってたぞ」
落胆するシルバに向けて拍手をしながら、レグは呑気な感想を述べる。
「……お前、無神経って言われるだろ」
「まあ、それなりに」
「何で少し誇らしげなんだよ。つーか見てんじゃねえ」
「シルバが見ろって言ったんじゃないか」
「うるせえ! 一発殴らせろ!」
「あの二人は放って置いて、続きを始めましょうか」
シルバはレグを追いかけまわす。そんな二人を意にも介さず、メンデルは淡々と他のクラスメイトを指名していく。
「……さて、では最後に、魔術師のエルマ・フィールさんに魔法を見せてもらいましょう」
その言葉をきっかけに、追いかけっこを続けていたレグとシルバも、さすがに足を止めた。
クラスメイトの注目が集まる中――青い瞳の魔術師が一歩前に出る。
「……」
体内に魔素を持ち、それを操る魔力も持つ魔術師。
エルフも同じ身体条件ではあるが……精霊の力を借りなければ上位の魔法を使えないエルフと違って、魔術師は単体で強力な魔法を使うことができる。それだけ、彼らの保有する魔素の量と魔力は桁違いなのである。
魔族と人類が戦う上で、魔術師は無くてはならない存在だ。現に、オーデン王国の軍や名のある騎士団、ギルドの長は、みな魔術師である。
そしてそれは、他の種族では重要な役職に就けないという証左でもある。
唯一、この国の賢者にだけはなることができないのだが……そもそも、賢者になれるのは「聖人」と呼ばれる特別な種族だけなので、例外中の例外だ。
そんな魔術師の一人が一体どんな魔法を使うのかと、落第組の面々が見つめる中――エルマは、懐から水晶玉を取り出した。
「え?」
その光景に驚きの声をあげたのが誰かはわからない。それを特定する必要がない程、辺りに衝撃が走る。
「……それは、魔具ですね。魔具を使うのは大変いいことですが、できればご自身の魔法を見せてほしいですね」
メンデルは水晶に目を落としながら、エルマに呼びかける。
しかし、エルマは魔具を仕舞うことなく、冷静な声で言った。
「私は――魔法が使えないんです」
先刻を上回る衝撃が走る。
「ですので、この魔具を使いますが……何か問題がありますか?」
「……いえ、少々驚いてしまいましたが、いいでしょう。お願いします」
「ちょっと待って!」
エルマとメンデルの会話に、サナが割って入る。
その瞳は、燃えるような赤色に染まっていた。
「あなた、魔術師のくせに魔法が使えないの?」
「はい。そう言いましたが」
「だったら、何でこの学園にいるのよ」
サナの疑問はもっともだった。
ソロモンに入学するということは、卒業後、何らかの形で魔族と戦うことが義務付けられるのとイコールだ。
もし、魔法が使えない魔術師などという存在がいるなら……そもそも学園に入学するはずがないのである。
「魔法は使えずとも、魔具は扱えますから。あなたたち人間と同じように」
「っ……」
魔術師はプライドが高く、基本的に魔具は使わない。
ノーマルが弱さを補うために開発した道具など、使うに値しないと思っているからだ。
それは恐らく、未開の原始人が用いる槍を、現代人が使わないのと似たような感覚である。
だが、エルマは堂々と魔具を使用すると宣言している。
それはつまり、自分がノーマルと同じレベルであると認めているようなものだ。
――何なの、この子。魔術師のくせに、魔具を使うことを恥じてないわけ?
サナの頭に疑問符が浮かぶ。彼女だけではなく、エルマの言動を見ていたクラスメイト全員が同様の疑問を抱いていた。
ただ一人、レグ・ラスターを除いて。
「……そもそも、魔術師が魔法を全く使えないなんてこと、あるはずないじゃない。運悪く魔素の量が少なく生まれる人もいるっていうけど、それでも下位魔法くらいは使えるはずよ」
「運悪く、ですか」
エルマは青い目を閉じる。その仕草は、ともすれば諦めとも取れるだろう。
だが、再び開いた彼女の瞳には――強さだけが映っていた。
「私は運悪く、魔素を全く持たずに生まれました。それでも、魔術師として、フィール家の一員として……必ず、この学園で成り上がらなければならないのです」
言って、エルマは水晶を構える。
「我が問いに答えよ、『悲鳴の水晶』」
彼女の瞳と同じ、淡い青色をした水晶が――光り輝く。
「【
エルマの放った魔法は。
まるで彼女の悲鳴を代弁するかのような轟音を――響かせたのだった。
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