07
「あーもうムカつく!」
ボスッと音を立ててルーチェは枕を投げつけた。
「何が〝私を拒否する意味が分からない〟だナルシスト王子!」
別の枕を手に取るとそれも投げつける。
「しかも人のファーストキス奪うとか! 許せない!」
「大変だったわねルーチェ……」
自分の分まで投げられないようロゼは枕を抱きかかえた。
「――でも、そのせいでこうやってルーチェとお泊まり会が出来るのは嬉しいわ」
ユークの言動にキレたルーチェが侍女を辞めると宣言した。
それを元凶であるユークとオリエンスが止めようとしたのだが、そこでのユークの言葉にまたルーチェがキレてしまい、とりあえずしばらく休暇を与えるという事でその場を収めた。
けれど家に帰っても居場所のないルーチェを、ロゼが屋敷に連れてきたのだ。
ルーチェは子爵令嬢であり、公爵令嬢のロゼとは身分に大きな差があるが、ロゼが行方不明になっていた間ルーチェが友人としてその支えとなっていた事をロゼの家族は知っており、ルーチェは大事な客人としてノワール家に迎えられた。
歓迎の夕食の後、二人でロゼの部屋に引き上げてきたのだ。
「昔はよく互いの家に泊まりに行きましたね……」
「――ねえ、ここは王宮ではないのだし、そんな話し方しないで」
遠くを見たルーチェの顔を覗き込んでロゼは言った。
「様付けもしなくていいから」
「そう……分かったわ、ロゼ」
顔を見合わせて、どちらからともなく笑みがこぼれた。
「ルーチェは殿下の事は好きではないの?」
ベッドに並んで寝転がりながらロゼは尋ねた。
「ゲームでは一番好きなキャラじゃなかったの?」
「――顔はね……好みなんだけど」
ルーチェはため息をついた。
「王子様なんだし、ここでは女性の立場が弱いのは仕方ないんだろうけど……やっぱり女には出来ないって言われるのはダメだわ」
ひかりが嫌いなもの、それは〝か弱い女の子扱い〟される事だった。
勝気な性格のひかりは幼い頃から男子に負けたくないという気持ちが強かった。
勉強も体育も人一倍頑張って、常に上位の成績を収めてきた。
そんな自分の能力を見ないで見た目や性別で判断される――それはひかりにとって何よりも悔しい事だった。
「そうね……でも、殿下はルーチェの事をよく知らないのだし。ルーチェがそういうの嫌いだって分かれば今度から気をつけてくれるんじゃないかしら」
ルーチェの横顔を眺めながらロゼは言った。
前世のひかりもルーチェも可愛い顔立ちだが、ひかりはどちらかというとボーイッシュな感じで勝気さや強さがその佇まいからも表れていたが、ルーチェはゲームのヒロインらしく、幼さの残る、守りたくなるような愛らしさで――ひかりが嫌いな〝か弱い女の子〟に見えてしまうのだ。
「今度からねえ……また会う機会あるのかしら」
「……本当に侍女を辞めるの?」
「だって王太子を殴ったり顔ひっぱたいたりしたのよ。クビになるのが普通じゃない」
「でも殿下は辞めさせる気はないみたいだけど……」
ルーチェが侍女を辞めると言い出した時のユークの焦り方を思い出してロゼは口元をほころばせた。
「殿下はルーチェの事が好きなのね」
「……好かれるような事をした覚えはないんだけど」
「殿下が好きになるような何かがあったんじゃないかしら」
「何もなかったと思うけど……そういうロゼはどうなの?」
「え?」
「ヴァイス様とはどうなっているの? 昼間フェール様と三人でいたけれど、公認なの?」
ロゼの左手に視線を送りながらルーチェは言った。
薬指に光る紫水晶をはめ込んだ指輪は、どう見てもヴァイスから贈られたものだろう。
「あ……ええと……」
ロゼは顔を赤らめた。
「実は……三ヶ月後のお披露目の時に婚約する事になったの」
「婚約?!」
ルーチェはおもわず上体を起こした。
「いつそんな話になったの?!」
「……この間……街に行った時にプロポーズされたの」
「プロポーズ?!」
「それで……家に帰ったら……お父様に、それまでに気持ちが変わらなければお披露目の時に一緒に婚約の発表もするって」
顔を真っ赤にしながらロゼは言った。
「――ロゼはいいの? ヴァイス様と結婚して」
二人はまだ数えるほどしか会った事がないはずだ。
恋愛経験のほとんどないロゼが会ったばかりの相手と結婚など……。
「……確かにヴァイス様の事はまだよく知らないわ。でもあの人と一緒にいると、とても幸せな気持ちになれるの。お兄様やルーチェといる時も幸せになるけれど、それとはまた別の感覚なの……上手く表現できないけれど」
ロゼはふわりと微笑んだ。
「ヴァイス様とずっと一緒にいたいって……この人なんだって、強く思うの」
その笑顔はルーチェが見たことのないほど幸福感に満ちたものだった。
「……そうなのね」
「うん」
頷いたロゼの頭を撫でる。
「幸せになるのよ」
「ありがとう。ルーチェもね」
「……私の事はいいのよ」
「だめよ、ルーチェが幸せになれなかったら悲しいもの」
ルーチェを見つめてロゼは言った。
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