第3章 惹かれあう心

01

「お嬢様にお届けものでございます」

ロゼがマナーの勉強を兼ねて母親とお茶をしていると、侍女が入ってきた。


「私に?」

「こちらです」

別の侍女が大きな花束を抱えて入ってきた。

淡い色や濃い色、様々な紫色の花がまとめられている。

「綺麗……」

「あら、まあ!」

手渡された花束を見つめるロゼの向かいで公爵夫人が声を上げた。

「ロゼ、あなたったらいつの間に」

「……え?」

「こちら贈り主からです」

キョトンとしたロゼに、侍女が一通の封筒を手渡した。

中には流麗な文字が書かれた、綺麗な模様の描かれたカードが入っていた。


――先日は短い間だったが共に過ごせて嬉しかった。

また同じ時を過ごせる事を願っている――ヴァイス


「ヴァイス様……」

ロゼの脳裏に優しい紫色の瞳が浮かんだ。


カードを見つめる娘の瞳が潤んでくるのを見て夫人は目を細めた。

「……ロゼ。あなたいつの間に彼とそういう関係になったの?」

「え……いえ?!」

驚いてロゼは慌てて首を振った。

「先日お茶会の時にお会いしたのが初めてで……それきりです」

「まあそうなの? 随分と親しそうだったけれど。王妃様が残念がっていたわ」

「残念?」

「あなたをユーク殿下のお妃にどうかと思っていたんですって」

「ええ?!」

ロゼは目を見開いた。

「殿下はこれまでどの御令嬢にも興味を示さなかったの。そこにあなたが現れて、殿下自らお茶会に招待したっていうから」

「で、でも私は……」

「いつまた身体が悪くなるかも分からないしお妃は務まりませんってお断りしたのだけれど、それでも一度会ってみたいとなったのがこの間のお茶会だったのよ。でもヴァイス様ととても親しそうにしていたから、これは難しそうねって言っていたの」

あなたの事、諦めてはいないみたいだけれど。

夫人はそう付け加えた。


先日の王妃様とのお茶会に迎えに来たヴァイスは、これまでロゼが会ったどの男性とも違っていた。

初めて会うのに初めてではないような、けれど懐かしさとは違う……不思議と落ち着く感じを抱かせた。

男性が苦手なロゼだったがヴァイスには緊張を感じる事もなく、優しい眼差しも、低めの声もとても心地良くてずっと一緒にいたいと思えるくらいだった。

彼と言葉を交わしながら後宮へと向かう内に気持ちも落ち着き、お茶会も無事に終える事が出来たのだ。


「ロゼ」

視線をカードに落としたロゼに夫人は声を掛けた。

「お父様が端からお断りしているけれど、あなたを娶りたいという打診がいくつも来ているの」

「……え」

「公爵家の娘ですもの、他の貴族からすれば是非にと願うわ。ただあなたは貴族社会に慣れていないし、政治の道具にするには可愛そうだから。私はなるべくあなたの望む所に嫁がせたいと思っているわ」

「お母様……」

「ヴァイス様ならば家柄も釣り合うし、家は長男のディラン様が継ぐでしょうからあなたの負担も少ないと思うの」

「え、あの」

ロゼは視線を泳がせた。

「私……と……ヴァイス様はそういう訳では……」

「この国ではね」

夫人は花束を指した。

「自分の瞳と同じ色を贈るのは特別に想う相手へと決まっているのよ」

「特別……」

様々な花は、ロゼが知っている、桔梗や紫陽花に似た花もあれば見覚えのないような形のものもある。

色味や濃さは異なるけれど紫色で統一された花束は上品で、ヴァイスと一緒にいた時のように落ち着く感じを与えた。

本当に……彼は、自分の事を特別だと思ってくれているのだろうか。――自分が彼の存在を特別だと感じたように。


「そうだわ、返事をしないと」

ぱん、と夫人は手を打った。

「こういう時はお礼の手紙を出すのよ」

「はい……お母様」

ロゼは母親を見上げた。

「私も……何か手紙以外に贈り物をしたいの」

「まあ。そうねえ」

夫人は思案するように首を傾げた。

「そうだわ、ハンカチに刺繍をしたらどうかしら。あなた上手だもの」

この世界で刺繍は令嬢のたしなみの一つとされているが、ロゼの腕前は普通の令嬢のそれよりもかなり上のものだった。

雫は手芸が趣味で、中でもフランス刺繍だけでなく日本刺繍にも手を出すくらい、刺繍が好きだった。

ひと針ひと針、無心になって刺す時間は普段漠然と抱いていた不安を忘れさせ、また少しずつ形になっていくのを見るのは楽しいものだった。


「あなたの瞳の色の糸を使って刺せば、きっと喜んでくれるわ」

「……はい」

どんな図柄にしようか。イニシャルと……何か絵柄もいれた方がいいだろうか。

ヴァイスを思い出しながら、ロゼは早速刺繍の事で頭がいっぱいになった。

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