第10話 リトライ中です……失敗しました
僕は突然魔法に失敗したことに戸惑っていた。
あいつが教室でいきなりわめき出し、みんなに笑われたとき、計画通りとほくそ笑んだ。しかしそのあと、心配した教師が指示して黒木さんを行かせたのは想定外だった。
余計なことをしやがって。次はお前の番だと教師を睨んだ。
だが効いているのは間違いない。結局村上はあのまま早退したのだから。
それから、とどめだとばかりに、何度か魔法をかけているのだが、途中からなぜかうまくいかない。
魔法は実施後、プログラムのように成功判定があり、応答が返ってくる。
成功か、失敗か。
『リトライ中です……失敗しました』
たいていは数秒で成功が戻るのだが、今は一分くらい戻らないのだ。
プログラム的理屈で考えると、リトライを何度か繰り返しているから応答に時間がかかると考えられる。すぐに失敗するのであれば、すぐに応答するはずだ。つまり何度か試そうとしているということになる。
魔法が届かない、ということが一番考えやすい。
実際、魔法の座標位置はこの教室と、あいつの自宅のみの設定しかできなかったため、他の場所では魔法を行使できないのだ。
あいつ個人に仕掛けてやりたいのだが、長く効果を持たせるためには刻む必要がある。例えば刺青を気が付かれずに刻むのは無理だ。また人に対しての魔法はペナルティがあるらしく魔力という名の体力消費が激しいというのもあった。
「くそ」
イライラして髪の毛を掻きむしる。
「まさか」
最悪の事態に気づく。
まさか黒木さんの家にいるなんてことないよな。女を騙す才能だけはある男だ。何を仕掛けるかわからない。
しかしどうする。
さすがに黒木さんの家は知らない。村上はたまたま中学が同じだったので知っていたのだ。
逆にあいつの家に行けば確認できるか。
それに二階のあいつの部屋に明かりがついていれば、安心だ。魔法だってもちろんそんなにわかっているわけじゃないし、テストもきちんとできてない。プログラムにイレギュラーはつきものだ。この魔法はテンプレートを使わずつくった自分のオリジナルだし、十分にテストしたとは言えない。想定していないバグが出たのかもしれない。
もしかすると刻んだ魔法円が何かにより剥がれたのかもしれない。
きっとそうだ。
親には適当に理由を作って外に出ると、村上の家までいく。親しくはないが、村上は中学が同じで家もだいたいわかる。自転車で行ける距離なのだ。
ある程度近づいたところで二階の部屋に明かりがあることがわかり、胸を撫でおろした。
では、なぜ魔法が失敗するのか。
そう簡単には消えないように二階の屋根に魔法円を刻んでいるのだ。前と同じように近くに自転車を置くと歩いて、オートロックでないマンションに勝手に忍び込んだ。そこの屋上からちょうどあの男の屋根が見えるのだ。持参し双眼鏡で屋根を見るが暗いせいで魔法円がどうなっているのかよくわからない。
ひらめいた。
「もう一度打ち込めばいいだけか」
前回と同様に魔法で刻みこめばいい。魔法円が二つ刻まれていたからといって問題はないだろう。
「印を刻み込め」
手のひらから何かが打ち出されてた感触と、魔力消費を感じる。足がふらつく。
が。すぐに期待していた応答が戻らない。
まさか。しばらくの時間経過の後、メッセージ。
『失敗しました。リトライ中です……』
「……失敗した」
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