5章 黒ギャルさんと新たな事件(好感度100%)

①黒ギャルさんと新しい日常

 陰キャぼっちな僕が、席替えで席が隣同士になったのをきっかけに切り出された、クラスの女ボスであられる黒ギャルな神崎麗子かんざき・れいこさんからの奇妙なお願い。


 その内容は、神崎さんがいつも一緒にいる仲良しグループの中に、実は密かにSNSで裏アカを作って神崎さんの陰口を叩いてる人がいるから、隣で自分達の会話を聞いてて怪しい挙動や反応をする人がいないか密かに見張って欲しいとのことだった。


 とまぁ始まりはあくまでも聞き耳立ててるだけの簡単なお仕事と言いますか、そんなソフトな感じだったんだけど――そこから事態は色々と思わぬ方向に発展していき、心身共にドタバタになって紆余曲折しつつも何とか裏アカ犯に辿り付いて事件を無事収束させたのが二日前のこと。ほんと、思い返せばジェットコースターのような毎日だったなぁ。


 そうして無事に神崎さんからの依頼を終えた現在の僕の学校生活は、席替えの前では信じられなかったある変化が起こっていた。


「おはよ、山代。一限目から体育とかマジだるいよねー。あ、もういっそのこと一緒にサボったりしちゃう?」


 神崎さんが日常的に喋りかけてきてくれるようになったり。


「山代、あたしらみんなで食堂いくからさ、あんたも一緒にいこうよ」


 と、お昼ご飯を一緒に食べようと誘ってくれたり。


「じゃあね山代。あ、後でライムするから、ちゃんと返してくれないとおこだからね」


 そう、放課後や家でも頻繁にメッセのやり取りをするようになったり。


 何かまるで神崎さんと友達になったみたいな感じだけど、流石にそう真っ直ぐに受け取っちゃうのは恐れ多いよね。たぶんこれは、ぼっちな僕に対しての神崎さんなりのお礼なんだろうから。


 それでも放課後や休日の過ごし方に関しては二週間前と同じよう、基本的にはお一人様で何のイベントもないひっそりとした日常のままなはず。


 てっきりそう思っていたんだけど――


「山代君、ちょっといいかな?」


 五限目が終わった後の教室にて。クラスメイトの女子が、自分の席にいた僕の左側に立って話しかけてきた。


「は、はい。何でしょうか」


 女性に不慣れな僕は、気恥ずかしさやら緊張やらでついつい声が上擦ってしまう。

 それに目の前の彼女は、黒髪ロングな清楚キャラでクラスのマドンナ的存在として男子から多大な人気を誇る美少女でこのクラスの委員長も務める柏木小春かしわぎ・こはるさんなのだから尚更――


「今ね、他のクラスの人から回ってきたんだけど、今日急遽文化祭実行委員会を開くことになったから、文化祭実行委員は放課後に集まって欲しいんだって。場所は昨日と同じ教室みたい」

「え、そうなんですか! 昨日あったばっかりなのに、一体何の招集なんだろう……」


 文化祭実行委員会。それは読んで字の如く、文化祭を実行するための委員会である。こうやって字面だけ見ると大それた職務に見えるけど。ま、正直言いますと、平役員なんてのは単なる文化祭に特化しただけの雑用係でしかなかったり。


 昨日のホームルームで、不幸にも文化祭実行委員会を決めるくじ引きで当たりを引き当てちゃった僕は、同じく女子側の当選者だった柏木さんと一緒に文化祭実行委員として頑張ることになってしまった。

 それで昨日の放課後は、柏木さんと一緒に委員会に出席したり、終わった後は教室に戻って来週のホームルームを借りて文化祭で何するか決めようとか軽い打ち合わせをしたわけなんだけど――そんな感じでクラスのマドンナ的存在の柏木さんと定期的に二人きりでいられる機会を得たせいか、男子からの羨ましさとやっかみが混じった刺すような視線が至る所から飛んできてとてもいたたまれなかった。

 嫉むくらいならいっそのこと言ってくれれば喜んで変わってあげるのに、ただでさえ億劫な役にプラスして何でこんな肩身の狭いおもいしなきゃいけないんだろう。はぁ。


 それにしても昨日の委員会の中身といえば、顔合わせと文化祭までのざくっりとした大まかな流れの説明をしただけで、まだそんなに話すことはないですって感じだったのに。


「気になるよね。これ、私が小耳に挟んだ話なんだけど三年生の先輩いわく、去年も一昨年もこんな顔合わせの次の日にいきなり招集なんてことはなかったって話らしいよ。よくないことじゃなければいいけど……」


 柏木さんが顎に手を当て心配するよう顔を曇らせた。

 そんな彼女の不安を少しでも晴らせればと、僕なりに精一杯の笑みを浮かべて口を開く。


「あ、あははは、案外その逆かもしれませんよ。今年は例年よりも大っきなことをしたいから、みんなの力を貸して欲しい的な」


 すると、


 ――ぶるるっ!


 不意に背筋にぞくりと冷たいものが駆け抜けていくような、悪寒染みた衝動が僕を襲った。


 はっとなって目を見張ると、何やら柏木さんの背後で、足を組み、机に肘を立てて頬杖をついた神崎さんが目から光沢の消えた思わず背けたくなるような凍てついて圧のある表情でこっちをじっと見ているのに気付いて――えええええっ!?


 ど、どどどうしたんですか神崎さん!?


 何だか昨日柏木さんと二人きりで廊下を歩いてた時にすれ違った男子から飛んできてた嫉妬と羨望の混じった視線と若干似てる気が――いやいや流石に同性の柏木さん相手にそんな感情を抱かないだろうし……わからない。


「そうだよね。緊急だからとはいえ、何も最初からネガティブな方に捉えなくてもいいよね。山代君が今言ったことだって、全然あるかもしれない話だもの。ふふ、ありがと」

「い、いや、そんなお礼の言われるようなことは何も……」


 ぱぁっと柏木さんの表情に明かりが戻る。


 そんな彼女の背後には、ゴゴゴと吹雪でも荒れるバックボーンが見えるような険しい顔をした神崎さんがいて……。


 こ、この状況、一体何が起きてるというのですか!?


 そう、胸中で困惑しながら顔を引きつらせていると、


「山代君」


 柏木さんが唐突に僕の手をぎゅっと両手で握りしめた。


「ひゃ、ひゃいっ!?」


 予期せぬ事態に声にならない声が漏れ出る。女の子を感じさせるふにっと柔らかな感触に包まれた僕は、まるで長時間サウナに入っていたかのようにゆで上がり、心臓も早鐘を打ち始めて――


「放課後どんなことが待ってるのかはわからないけど、こうしてお互い文化祭実行委員になっちゃったからには、無事に成功で終えられるよう一緒に頑張ろうね」


 まるで天使と言わんばかりのとびっきりの笑顔。


「は、はい。こ、こひらこそ……」


 羞恥に照れや動揺、色んな感情が波のように押し寄せてきて大混乱中の僕は、盛大に噛んでしまった。そりゃ美少女の柏木さんにこんなことされたら、誤解しちゃう男子が出てきても仕方ないといいますか。かくいう僕もさっきからドキドキが収まらなく――


 そんな天使様の背後には、どす黒いオーラを纏い、まるで人殺しの目の如く瞳孔をかっぴらいた神崎さんが物申したげにじっと見つめていて……そのアラスカを連想させるような極寒の眼差しに、一気に心がフラットに押し戻されてしまう。


「それじゃあまた後で。放課後もよろしくね」

「は、はい。こちらこそ」


 にこやかな顔でふりふりと手を振って去って行く柏木さんに、僕も手を振って返す。


「…………山代さぁ」


 柏木さんが完全にいなくなったのを見計らうようなタイミングで、神崎さんが至極機嫌が悪そうな様子で話しかけてきた。


「は、はい。どうしましたか」

「とりま、手をパーにしてそこに出してくんない?」

「へ、手、ですか?」

「いいから、はやく」


 有無を言わせない圧のある表情に、ひとまず僕は両手を開いて差しだした。

 すると神崎さんは、自分の鞄から香水の瓶を取り出したかと思うと、僕の手にしゅっしゅっと吹きかけた。


「よし。とりあえずはこれでおっけーかな。もういいよ、楽にして」


 一安心とばかりに軽く息を吐いた神崎さんが、小さく頷いた。


「あの、これは一体……?」


 何だか雰囲気だけで言うと、まるでばい菌の消毒みたいでしたけど。


「んーわっかんないけど。無性にそうしたくなった的な。……そんなことよりさ、今の二人の話聞いてた感じだと、今日の放課後も委員長と二人でなんかするわけ?」

「なんかそうなるみたいです。もっとも、何をするのかは今のところさっぱりですし。それに委員会中は他のクラスの人も沢山いますから、別に二人きりで何かをするってことは全然ないんですけどね。なのに、その辺を誤解してる男子からの風当たりがきつくて少し参ってまして」


 委員会の話を聞かれた僕は、ついつい聞かれてない愚痴までぽろっと一緒に出てしまった。


「ふーんそっかそっか。会議中は、別に二人きりになるってことはないってことね」

「へ?」


 気のせいかな? 何か言葉の止め方が、少々おかしかった感じが……。

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