あれ? 俺の人生、フラグ回収ばっかじゃん!

五池真礼

第1話

 俺の長いため息が静謐な空間に響き渡った。


「なにが『gg』だよ」


 俺こと東圭太郎あずまけいたろうは生粋のゲーマーである。そんな俺は高校2年生へと進級する直前の春休みもゲーム三昧で――


「マッチポイントだったのによぉ……」


 いや、見ての通り愚痴三昧だった。


「クソッ」


 俺はいつものように5対5で戦うFPS、それも戦術的なプレイや綿密なチームワークが重視される『MB24』をやっていたのだが、


「はぁ……」


 惜敗したのである。屈辱的な逆転負けってやつだ。


「勝てたのに……」




 ――30分前のお話。


「そこじゃない!」


 味方のスモークグレネードは、俺の期待を裏切るように後方で白煙を燻らした。


『――プスゥーーウ……』

「あっ」


 敵チームに丸見えの俺、文字通りの集中砲火にて死亡(味方も続いて死亡)。



 次のラウンド、終盤。


「よし、勝て……」


 味方がスタングレネードを、なぜか俺の目の前で起爆し、


『――パンッ!』

「――は?」


 モニター画面は真っ暗。つまり俺はブラインド状態。そして――


「見えな――あ」


 即、死亡(味方も続いて死亡)。



 そして、両チームマッチポイントの最終ラウンドへ。


「やばいぞ、この試合……」


 モニターに武器選択画面が表示される。ふと、仲間の武器選択を確認してみると、


「あっ」


 今度は殺傷能力が高いフラググレネードを装備してきた味方。おそらく、爆発と同時に飛び散る破片で敵チームを一掃したい、っていう魂胆なんだろうが……。


「――!?」


 俺はそう


『最終ラウンド開始!』

「絶対勝つ!!」



 だがしかし。

 最終ラウンド、ともあって――


「くっ……」


 敵チームの防衛拠点はこの上なく頑丈だった。ジャミング装置や有刺鉄線などの罠が多数仕掛けられ、思うように侵攻できない。

 時間だけがいたずらに過ぎていった――。


「おっ!?」


 そのときだった。

 味方がフラググレネードのピンを抜いて、一歩、二歩、前に出た。


「よし! それ、を……」


 もう皆さん、気づいているだろう。


 ――、ということを。


 ――先ほど俺が、というこを。


 味方は投げる寸前で敵に頭を撃たれ、即死ヘッドショット


「――あ」


 フラグはその場からコロコロ、コロコロと後ろ、つまり、俺たちの方へと転がり、


『――ドンッ!』

「――なッ!?」


 結果、道連れグレネード。これにより、部隊は全滅。敗北を知らせるアナウンスが無情にも流れた。


『ミッション失敗』

「文字通りフラグ回収……ってか?」



 ――そして今に至る、というわけだ。


「フラグさえ……くっ」


 味方のミス、それさえなければ快勝だったはずなのに。

 最終的にフラグを立てたお前が悪いって?

 なんでやねん。俺は悪くない。もし仮に、もし仮にだよ? 最終ラウンドは俺のせいだったとしても、それまでに2回もミスっている味方が悪いわけで――そうだ、俺は悪くない。そのはずだ、うん。

 それにしても、と俺は口ずさむ。


「グレネードで……。されどグレネードかぁ」


 FPSにおいて、グレネードはが付くほどのお助けアイテムである。その種類は大体この三つ――


 視線の誘導や擬似的な遮蔽物として用いられる『スモーク』、


 目を眩ませる閃光と耳をつんざく爆発を起こす『スタン』、


 高い殺傷能力がある小型爆弾『フラグ』、


 ――どれも優れものだ。


 だがしかし。

 試合の結果を見てもらえば、わかると思う。グレネードは連携を取って初めて活かされるのだ。

 さっきの試合だって。

 スモークを俺の行く手に投げていたら、ポジション取りは最高だったし――勝てた。

 スタンは俺の目の前ではなく、敵陣地にしっかりと投げて起爆していれば、突入できたし――勝てた。

 最終ラウンドだって、フラグを持ったまま普通死ぬか? いやいや、ありえないだろ。

 フラグを立てたのはおま――お黙り!

 コホンコホン。

 ていうか、と俺は口にする。


「謝罪無し、代わりに『gg』ってのはいかがなものか……」


 まあ。仲良くするつもりも、そんな気もないからいいんだけどさ。


「はぁ……。あーもうやめだやめだ! もうやんない、二度と! ぜぇーーったい!!」


 そう言って、俺は慣れた手つきでPCの電源を落とした。

 翌日、俺が同じゲームをやっていたことは言うまでもない……。




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