作戦No.0022 案内

敵の陣地へ潜入が成功し、ドラードとリアンは新しい軍服に身を包み街中を歩いていた。


「ここからどうするの?」


「そうだな、ひとまず連絡手段を見つけたいな」


ここは前線からかなり近い場所なので、おそらく機器の管理はしっかりしていないだろう。ならばそれが保管されている場所さえ見つけることができれば、拝借することも容易いはずだ。

だが、


「誰かに聞くわけにはいかないよね」


「ああ、怪しまれる可能性は極力避けねえと」


ここに来てまだ1日しか経っていない。そんな人間が通信できるものなど欲しがったら怪しまれる可能性はでかい。

となると、しらみ潰しに街を歩き回るしかない。


「でもこの街すごい大きいね」


現在歩いている場所は街をきれいに真っ二つに分けているメインストリートで、この道の長さにリアンは感嘆の声を漏らす。


「ああ、なにせ国で2番の大きさだからな」


国の中で1番の大きさの街は首都のカルボだ。街の造りから見ても、この2つの街はかなり酷似している。


「…ここを?」


この規模、一軒一軒探していたら1ヶ月以上はかかるだろう。リアンは先行きが暗くなっていくのを感じた。


「なんとかなるさ。安心しろ、別に敵の最重要機密を探るわけじゃねえんだからよ」


そんな暗い気分に浸っているリアンの頭に、ドラードは手をぽんと乗せる。

リアンは顔をしかめて、それをさり気なく払った。


「じゃあ、街の地図でも取りに行くか。入口に行けば適当な店に並んでるだろ」


そう言ってドラードは歩き出す。そこにリアンも続くと、


「おっと、地図ぐらいは俺だけで行ける。お前はそうだな…あっちに行って、上官について調べてくれ」


「上官って?」


そう聞かれると、ドラードは立ち止まってリアンの方へ振り返った。


「あのカウってやつはかなり高い地位の男でな。おそらく、この街にいる数十の部隊の取りまとめ役なんだろ」


「え…すうじゅ…」


「首都攻略のための戦力がここに集まっているということだ。ヴィスもその数十の部隊のうちの1つ」


「へー」


「だから、ここにいる具体的な部隊数、及びそれぞれの上官、全体の規模、兵器の規模、あとできれば司令系統なんかも分かればいいな」


じゃあな!

言われたことの処理ができず棒立ちのリアンに、片手を振って挨拶をしドラードは去っていった。


―――――――――――――――


リアンは敵の兵士が忙しなく作業している大通りを、目的もないままに歩きながら、これからのことを考えていた。

突如理不尽に投げつけられた任務に、彼女はどうしたらいいのか分からないのだ。

だからといって自分だけ何もしない訳にもいかないということで、ドラードが向かった方と反対側、大通りの出口へ向かっていた。そこまで歩くことで街の仕組みを把握しようという腹だ。


しかし人が多い。

街人は避難しているためこの街に居ないのだが、それに引けを全く取らないほど軍人がそこら中を歩いている。そのため街は中々の活気さを見せていた。


と、


「どこに行くんだ?」


どこからか声をかけられたリアンは、辺りを探すと建物に寄りかかって腕組しているヴィスがいた。


「………」


思わず警戒をして1歩後ずさりした。

それを知ってか知らずか、ヴィスはゆったりとした足取りでリアンのもとへ近づいてくる。


「おいおい。何を警戒してるんだ。まさかカウだと思ったのか?安心しろよ。あいつはほとんどここに来ることはない」


ヴィスと向かい合う形になり、非常に気まずいリアン。


「もしかして迷子なのか?」


特に深く考えず、うん、とうなずく。


「この街はでかいもんな………よし!俺が案内してやる」


付いてこい!

やけに上機嫌な様子で、ヴィスは先導し始めた。


今更断るわけにもいかず、渋々リアンはついていくしかなかった。


―――――――――――――――


「こっちが倉庫街、足んなくなったらここに来れば何でもあるからな。ちゃんと自分の装備は自分で管理するんだぞ」


なんとも優しく、丁寧に、分かりやすくヴィスは町を案内してくれている。認めたくはないがリアンは少しだけ楽しかった。


「へえ、無線機とかもあるの?」


先程無線のことを聞くのは怪しまれるなど話していた気もするが、そんな事はすでに忘れてしまっていた。


「お?ああ…まだ持たせてなかったな。ついでだから今渡そう。こっちだ」


倉庫が何個か並列している。そのうちの1つに入っていく。


中には乱雑に置かれている大小様々な無線機器があるが、あまりにも管理が酷く、本当に使えるのか疑問が出るほどだった。


「これだこれ、ほら」


そんな中をガサガサと、これもまたゴミ漁りでもしているのではないかというほど雑にヴィスが2つ無線機を引っ張り出した。


受け取ったリアンがそれをよく見てみると、思ったよりも状態は良さそうだ。


「もう1個はドーラド渡してくれ」


「わかった」


1つを装備して、もう1つのドーラド、改ためドラードの分をポケットにしまった。

ついでに倉庫内の山を見てみると、どうやらかなり大型の無線機器もあるようだ。意外な収穫にリアンは心の奥でガッツポーズを決めた。


「よし次行くぞ」


ここの用事はもう終わったので、ヴィスは早速倉庫を出ていった。


「次は上官が入り浸ってる作戦を立てる用の建物に…」「あ!ヴィス!」


駆け足でこちらに寄ってくる男を見るなり、ヴィスの雰囲気が先程から一転し真剣な顔になった。


「どうした」


「カウが呼んでいます。至急司令室まで来てください」


「分かった、すぐ行く」


それだけ言うと男はまた駆け足で帰っていった。


「すまんな、アンリ。案内はまた今度だ」


じゃあな。


手を振りながらヴィスは、ゆったりした足取りでリアンのもとから去っていった。


「………良かった」


ドラードから受けた司令は全く達成できていないが、かなり有益な情報を手に入れたのでリアンは満足げに宿舎へ帰ることにした。



この頃には、すでに夕方になっていた。



―――――あとがき―――――



ふむ、どうやらあの2人はうまくやっているようだ。安心だな。

というわけで今回のあとがきは私だ。名前を言わなくても分かるだろう。


次回は彼らの話ではなく、我々の話に移る。いい加減魔法が使えないとまずいのでな。訓練でもしようかと思っている。


そういえば、いつの間にか星が50になったな。こんな遅い投稿でよくそこまで行ったものだ…


では、また会おう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る