第41話 甘々なひと時
「さあ、食べましょうか」
十分に冷やした料理を机の上に並べ、俺はそれぞれの料理の説明をしていく。
「最初にウノ君たちに作ってもらったこれは、生キャラメルという料理です」
「生キャラメルじゃと……普通のキャラメルと何か違うのかや?」
「うん、良い質問だね」
エレナからの質問に、俺はニッコリと頷いて答える。
「普通のキャラメルとの違いは、生クリームの量が多いことだよ。それによって普通のキャラメルより滑らかな舌触りになり、口溶けがよくなるんだ」
「ほう……それは楽しみじゃのう」
俺から説明を聞いたエレナたちは、一口サイズに切られた生キャラメルを口に放る。
「ほう、これは……随分と柔いの」
「確かに普通のキャラメルと全然違いますね」
「何ていうか……とっても濃いです」
「頑張った甲斐があって、凄くおいしいね」
「うむ、違いない」
この世界にもキャラメルはあるようだが、普段食べているキャラメルとは違う食感、濃厚でクリーミーなコクに、エレナたちは揃って幸せそうな笑みを浮かべていた。
頑張って作った生キャラメルを満足そうに食べる三兄弟を見ながら、俺はもう一つのフォレテットのチーズを使った料理を手に取る。
「こっちはティラミスというお菓子です。俺の世界ではマスカルポーネチーズっていうちょっと特殊なチーズを使って作るお菓子です」
マスカルポーネチーズとは、イタリア産のフレッシュチーズで、乳脂肪分がチーズの中ではかなり高いことで知られているチーズだ。
元はイタリアのロンバルディア州という場所で牛が脂肪を蓄え、生乳に含まれる脂肪分が増える冬にしか取れないと言われるほど貴重なチーズで、十二世紀にこの地を訪れたスペインの総督が、このチーズを食べて「何と素晴らしい味だ(マスケ・ブエノ)」と絶賛したのが名前の由来と言われている。
そんなマスカルポーネチーズにも負けないほどクリーミーな、フォレテットのチーズで作ったティラミス……これは俺も非常に楽しみであった。
「では、こっちのティラミスとやらもいただくとするかの」
生キャラメルを堪能した指をペロリと舐めたエレナは、続いてスプーンを手に取ってティラミスを頬張る。
「ん~ん、これは堪らんのぅ……」
ティラミスを一口食べたエレナは、目を大きく見開きながら蕩けたような笑みを浮かべる。
「チーズとクリームの濃厚な甘さと、コーヒーに浸けたビターなパンが織り成すハーモニーの何と見事なものか。味は濃厚なのに口当たりは軽いから、いくらでも食べられるぞ」
「ほっほ、甘いものがあまり得意ではない私でも、これならパクパク食べられますな」
エレナに続いて、バカラさんも満足したように頷きながらティラミスを食べて行く。
「ハルトさん、よかったらこの二品のレシピを私に教えていただけませんか? これは、是非とも世に広めたいです」
「ええ、喜んで」
「ありがとうございます」
ニコリと笑ったバカラさんは、ティラミスと生キャラメルを交互に食べながら何度も頷く。
きっと彼の中では、これからどうやって二つのデザートで稼ごうか考えているのだろう。
そんな商魂逞しいバカラさんの様子に苦笑しながら、俺もティラミスを食べてみる。
「――っ、これは!?」
皆と違ってティラミスを知っているだけに味の予想はある程度ついていたのだが、このティラミスは俺の予想を軽く超えてきた。
最初はティラミス特有の濃厚なチーズクリームが現れるのだが、この甘さが驚くほど爽やかで、全く重さを感じないのだ。
これはフォレテットのチーズの甘さを考慮して、砂糖を通常より控えめにしたこともあるが、チーズそのものの優しい味が、クリーム全体に大きな影響を与えているからだろう。
本来ならエスプレッソコーヒーに浸したフィンガービスケットを使うところを、代替品としてマリナちゃんから貰ったお菓子を参考にパンを使ったのもよかった。
これによって仕上がりが全体的にふわっとしたものになり、エレナが言う通り非常に口当たりが軽くなっていくらでも食べられそうだった。
バカラさんではないが、フォレテットのチーズをどうにかして日本に持って帰りたいと思うほど、このティラミスは格別だった。
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