第13話
ニッポリアに書類の報告をしながらも、トゥーイは頭の片隅で別のことを考えていた。
留衣のことだ。
自分の過去を知られたことで、少なからず動揺した。
自分が彼女の祖母を殺したということを、知られたくなかった。
留衣の、自分に向ける満面の笑った顔がなくなるのが嫌だと思ったのだ。
「忌々しい」
小さく口の中で毒づくと、それを聞きとめたニッポリアが書類から顔を上げた。
「なにかあったのか?」
じっと見てくる視線に、トゥーイは皮肉気な笑みを浮かべた。
「誰かさんが余計な事をしてくれたおかげですね」
嫌味を言えば、ニッポリアはバツが悪そうな顔でトゥーイを見やった。
「勝手に話したのは悪かった。でも彼女は知る権利があるだろう」
「おかげで、いい迷惑です」
「喧嘩でもしたか?だが、お前が喧嘩できる相手がいるのはいい事だぞ」
ぱちくりと目を丸くしたあと、ニッポリアはにこりと笑った。
「しませんよ、そんな不毛なもの」
そうだ。
喧嘩などではない。
「元の世界に帰るそうですよ」
「なっ!」
思わずというようにニッポリアが椅子から立ち上がった。
そして眉根を寄せる。
「帰せる当てがあるのか?」
「リタリストが関わっているようですよ。この世界に呼んだのも彼だとか」
「それを放っておいているのか?彼らは何をしでかすかわからないんだぞ」
眉間に皺を寄せたニッポリアに、トゥーイは肩をひょいとすくめた。
「帰りたいと言っているのですから、いいんじゃないんですか。何かあっても彼を信じた自業自得です」
言い切ったトゥーイに、ニッポリアはストンと椅子に座ると、にやりと笑みを浮かべた。
その顔はひどく楽しそうだ。
「なんだ、拗ねてるのか」
あからさまにトゥーイが顔をしかめた。
「冗談じゃありません」
「いや、拗ねてるんだろ。教会を頼って帰るなんて言ったから」
「それがどうして私が拗ねることになるんですか」
はあ、と溜息をついてトゥーイが額に指先を当てた。
「決まってる。お前は彼女に帰ってほしくないんだよ」
柔らかく笑んだニッポリアに、トゥーイがきょとんと目を丸くした。
その顔に満足そうにニッポリアはトゥーイを指差す。
「傍にいてほしいと思ってるから、帰るなんて言われて不機嫌なんだろ」
「……馬鹿馬鹿しい」
「認めてしまえ、お前はあの子を気に入ってるんだよ。いや、お前の様子を見る限り気に入ってるなんてもんじゃない」
得意気にニッポリアが口の端を持ち上げた。
「お前の表情がよく変わるようになったのは、あの子が来てからだ。らしくない行動をとるのもな」
無駄に腐れ縁が続いていると、こういうときに嫌だと思う。
自分が必死で見ないふりをしているのに、堂々と言い当ててくるのだから。
「……彼女の世界はここではありません」
「じゃあお前はここじゃないどこかで、あの子が自分の知らない男とくっついてもいいのか」
ギリ、とニッポリアの言った言葉に我知らずトゥーイは拳を握りしめた。
表情の抜け落ちたトゥーイの顔を、ニッポリアは満足そうに見やる。
「一度くらい素直になれよ。お前があの子を求めたってフミは怒らない」
フミという言葉にトゥーイはぐっと奥歯を噛みしめた。
ずっと後ろめたく思っていた大切な人。
「フミは、お前が幸せになることを望んでる。もちろん私もな」
細く息を吐くと、トゥーイはふっと苦笑を浮かべた。
「本当、おせっかいなんですから」
仕方ない人だという表情に、ニッポリアは笑みを深めた。
その瞬間、びくりと急にトゥーイの表情がこわばった。
「どうした?」
「ニーナが壊されました。彼女から離れないように言っておいたのですが」
「なんだ、手放す気がなかったんじゃないか。それで?教会の仕業か」
「おそらく」
こくりと頷いたトゥーイに、ニッポリアもそれを見て頷いてみせた。
「彼女の救出をしてこい。何かあったときのために騎士も何人か派遣してやる」
「騒ぎもないのに教会に手を出せば、後々面倒ですよ」
「すべて私が責任をとる」
強い眼差しに。
「ありがとうございます」
早口に言うと、トゥーイは教会に行くべく執務室を飛び出していった。
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