第27話 五日目 その後
警察が規制テープをはり
その中には俺と通報した人
そして大家さん
数人の警察もいた。
おばさんはさっきかけつけた警察と大家さんによって開錠させられたドアから
救命士の方々により運び出された。
騒然としていた現場は今は幾分かは静けさを取り戻している。
しかし
規制テープの向こう側にはまだ野次馬はいる。
それでもだ
本当に静かになった・・・
「では彼女は一人でいた・・・と?」
「はい」
何度目かわからない質問
それは一緒に通報した人も同じようだ
大家さんには
「彼女は精神的に異常はなかったですか?」
とかそういう話を聞いていた。
おばさんの安否それはわからなかった・・・
警察がきて中にはいっていたときは
俺なんかは中にははいれなかったし
それに救命士がきたときには何かいろいろ大変そうで聞くこともできなかった。
でもこの異常さがわかったのか
あまり顔色は良くなかった。
おばさんは群衆に顔をみられないように
隠された状態で運び出された。
でも
それがまるで
そうまるでもう息がない人を運び出しているようで・・・・
胸の中がザラザラとした・・・
ほんの数時間前には普通に話しかけてくれて
俺が元気ないのを知ると差し入れをくれて
ほんの少し好奇心が過ぎたようだが
それはご愛敬というやつだったと今は思う。
こんなことになるなら差し入れをくれたあのとき
もっとたくさん感謝を伝えればよかった。
でもこんなことになるなんて・・・
おばさんがあんな・・・
頭にはおばさんが目を見開き大声で笑うあのシーンが焼き付いて離れなかった
なんというか・・・あれは本当に・・・
異常だった。
狂気という言葉を当てはめるならあれだし
地獄絵図ともいえるようなそんな光景・・・
何度もいうようだが頭にこびりついて離れない。
それほどだった。
インパクト?そんな言葉がかすむくらいの衝撃と
印象を植え付けた。
後半は必死になっていたからその光景を見ていられたが
もしこれが何もないでそのまま見ていれるかというと
それはきっと無理だ。
どうしてか?
そんなのは簡単だ。
単純に怖かった。
戦慄が走るほどの恐怖がそこにはあった。
背中に寒気が走り
ブルっと身震いがした。
「はぁー」
誰かがため息を吐く
そこには大家さんがいた。
「あの・・・」
なんだか声をかけてよかったのかはわからない
しかし声をかけないのもまた違うような感じだった。
「ああ、今日はありがとね」
すこし気を落としているようにこちらに返事をした。
「いいえ、あの・・・すいません・・・」
「なんで、君が謝るんだい?むしろ連絡をくれてありがとう」
大家さんも困惑を隠せないだろうが
俺に感謝の言葉をかけてくれた。
正直感謝されるようなことをした自覚はない。
だって
おばさんの行動に怯え
それから逃れるように俺は電話した。
この状況をいち早く終わらせたくて
俺は電話したのだ。
どうしたのだろ?
ずっと罪悪感が胸にくすぶるのだ。
大家さんが言った通り俺にはどうすることもできなかった
できなかったはずなに・・・
後悔が胸を締め付けた。
なんか思ってしまう。
もし昨日俺が現場にいればおばさんはこの部屋に入らなかった。
もしもっと早く仕事を片付けていればあの写真を見なかった。
そう“あの”部屋に関わらなかった。
(ん?)
なんで俺はあの部屋と今回のことをまるで一つのことのように感じてる?
“あの”部屋と今回の件は・・・
似ている?
夢に似ている?
あのテレビの映像に似ている?
似ているではない・・・
人が違うだけで同じ・・・
まるで同じことが起きている??
頭がすこし混乱していると
「はぁー」
また大家さんはため息をついた。
そのため息に顔をみると
「いやね・・・いま入ってもらってるあの部屋・・・そこの人がね・・・」
そこまで言うと声を潜めて
「今回の人と同じことで警察読んだことあるんだよ・・・」
そう耳元で話した
「いやね、変わり者というかなんかね・・・ちょっとネジが外れたというか・・・」
その話を俺は淡々と聞いていた
「あれ?驚かないのかい?」
大家さんは不思議そうに聞いてきた。
それにハッと気づいて
「あー、そうなんですね」
と相槌を打つ
だってそうだ。
俺が“あの”部屋の住人が同じことをしていた
そのことを知ってるはずがない
だってただの【清掃員】そんな過去のことなど知ることもない。
なんか気のない返事だったがそのあとをまた大家さんは話し出す。
「今日のここの方とおなじでね・・・頭を床にたたきつけて・・・血まみれで・・・」
その時を思い出したのか少し顔が険しくなる
「そして、その時の彼も笑っていたよ・・・今日の彼女みたいにね・・・」
大家さんは顔をしかめた
その様子をみて俺の頭にもテレビそして夢で見たあの光景が映し出された
その当時を知る人が
こんな風にいうのだ・・・きっとあれは夢や俺がみた幻想ではない。
この場所であった本当のこと・・・それがなぜ俺に?
疑問が出る
わからない・・・
その男性とも面識はないし
本当に仕事でたまたま来ただけ
なにがなんだかわかない・・・
「そのときはあの部屋の人・・・なんかおかしくなっちゃたみたいでね・・・」
大家さんは続けた
「今回みたいに大声で奇声がするって・・・近所から連絡来てね・・・それで見てみたら・・・」
大家さんは疲れたように話す。
「あの部屋の人はさ?そのあともたびたびなんかあったけど・・・ここの人はそんなことのない本当に普通の人だったのに・・・」
過去の出来事に今の出来事を照らす
大家さんは遠い目をしていた。
その横で俺もその光景を照らしていた
まったく同じな光景
違うのは人が変わったことくらい
おばさんはこのことを知っていて同じことを?
にしてもだ
そんな人が朝に近づいてきて差し入れなんかするだろうか?
しかも俺が写真をみて驚いた
そんなタイミング
まるで見計らったようなタイミングで
この部屋で起きたことを再現するような行動・・・
頭の中はくるくると俺が夢やテレビでみた映像と
今日この場でおばさんがやっていた行動が
交互にやってきて俺をただただ混乱へと導いていた
「あのお兄さん?」
大家さんが声をかけてきた
「あ!はい!!」
その声に急いで反応する
「いやね、もしかしたら今回の仕事・・・キャンセルするかもしれないんだ・・・」
「え!?」
驚いた
「いや、こんなことが起きてしまったらね・・・しかも二回も・・・」
意気消沈という感じである
「もともとね、もう古いでしょ?このアパートもう限界なんだよ・・・資産的な価値ももうないだろうし・・・このまま壊した方がいいかもね・・・」
そう語る目はもう何か悟ったような感じだった
「でも、たぶん中身はきれいにしないと取り壊しも・・・」
大家さんの言葉にかぶせるように話した
「そうか・・・そうだよね・・・うん・・・でもすこし考えてみるよ」
どうしたものか?悩みが膨らんだようだ
「はい、うちのものならそこのところも踏まえて提案できると思いますので・・・」
「ああ、わかったよ。じゃ一度君の会社の人に相談してそれからにしてみるよ」
「わかりました」
「だから、今日はもう作業はいいよ。きっと警察がまた聞きたいことあるだろうし、この環境で仕事も難しいだろうし・・・」
「はい・・・わかりました・・・」
大家さんは頭を抱えてこれからのことを考えているようだった
「すいません!」
「ん?なにか?」
「あの・・・」
気になっていたことについて聞いた
「昨日“あの”部屋に入りましたか?」
「?いや・・・・入ってないけど・・・何かあったかい?」
「あ、あの・・・その・・・なんでもないです。すいません。」
「??そうかい?」
今日の“あの”部屋あれが気になっていた
そして可能性としてあった大家さんであったが・・・
「違った・・・」
混乱する中
ざわめく民衆と困り果てた大家さん
その様子を見ながら会社に連絡をいれた
「もしもし、あの・・・」
今日起きたことを話した
「そうか、そんなことが・・・」
藤井さんとは違う上司が神妙な声で理解を示した
「なので、大家さんに今日はいいと」
「ああ、わかった」
「あと、大家さんが今後のことについて相談したいそうで・・・」
「相談かい?」
「はい、なんかこの物件をもう手放すというか解体しようとかんがえているみたいで・・・」
「ふーん・・・確かにこんなことがあったらなかなか住み手がいないかもな・・・」
「はい、それで相談したいといってましたので・・・」
「ああ、わかったその件はこちらで対処するから君はもう帰れるのかい?」
「いいえ、たぶんまた警察に聞かれるかもしれないです」
「わかった、じゃまた連絡してくれ」
「わかりました、おつかれさまでした」
そう言って電話をきる。
この間騒がしかった周りはほんの少し静まり
野次馬は警察の手で解散させられていた。
もう一度警察の質問を受ける。
なんだろう
疲れた。
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