第910話 神楽坂都と異世界人(8)
「必要ないだろ」
そう俺は言葉を返す。
そもそも本当にアストリアから、この世界に来るほど重要なことがあったのなら、また接触してくるだろうからな。
そこで、伊邪那美が俺を見てきている事に気がつく。
「どうかしたのか?」
「――いや、お主が頬を叩かれるとは思わなかったのでな」
「まぁ、避ける必要もなかったからな」
「ふむ……。それか、避けてさらに関係が悪化することを忌避したとも言えるか?」
「どうだろうな」
俺は肩を竦めて答えた。
――昼を過ぎた千葉駅前。
ふくろう交番近くのコンビニ付近を歩いていたリコリッタとエリーゼは、信号が見える位置で、巨大な異世界の建物を見て足を止めていた。
「ユートから、異世界は建築文化が進んでいるとは聞いていたけど……。想像以上ね」
そうリコリッタは口にする。
「……どうしよう」
そんなリコリッタの独白とも言える言葉を聞いているのか聞いていないのか沈んだ雰囲気なままのエリーゼは電柱に体を預けていた。
エルフの恰好をして弓を背中に括り付けたエリーゼ。
そして魔導士と言った格好で杖を手にしていたリコリッタ。
そんな二人の服装は、とにかく目立っていた。
ふくろう交番から距離があったとしても、とにかく目立っていた。
大勢の行き交う人たちがチラチラと二人へと視線を向けてきてはいたが、ガン見することはなかった。
そこは、コスプレ文化がある日本。
コスプレか何かと思い、一般の人たちから見たら痛い子だと思われるレベルの服装をしている彼女らに近づくことはなかった。
「ねぇ、エリーゼ」
「……どうしよう」
「駄目ね。これは重症ね」
完全に座り込んで回りが見えていないエリーゼに対して、リコリッタは溜息をつくと周囲を見渡しながら――、
「第8階梯魔法インビジリティ」
周囲からの認識阻害の魔法を発動させると同時に、二人へと向けられていた視線が途切れる。
そこでようやく一息ついたリコリッタは、エリーゼが背中を預けていた電柱近くの路上に座り込む。
「それにしても、すごい人数よね。建造物も、見たことがないほど巨大だし……」
「ねえ。リコリッタ」
「ようやく正気に戻ったの? エリーゼ」
「……」
無言になりコクリと頷くエリーゼに対して、思うところがないわけでもなかったリコリッタは、顔を上げるとアイテムボックスからマントを取り出して路上に広げて、
「座りなさいよ。認識阻害の魔法をかけてあるから大丈夫だから」
「う、うん……」
「やっぱり、ユートが私たちを忘れていた事が気になるの?」
そうリコリッタは口にしながらも、自身のことを忘れられていた事に対して納得のいかない部分はあった。
「そうじゃないの」
「それならアリアさんのことを?」
コクリと頷くエリーゼ。
「アリアさんか……。ユートの元、パーティメンバーだったよね……」
「うん」
頷くエリーゼの表情は、沈んだまま。
それを見ながらリコリッタは、内心溜息をつきながらも――、。
「(アリア・フォン・リンゼンブルグ……。私は、一度しか会ったことはなかったけど、たしか魔王軍と戦うために亜人種族の中でも、もっともランクの高い冒険者で構成されたパーティだったのよね……。そしてエリーゼの姉で――)」
そこまでリコリッタは心の中で呟きエリーゼを見て、
「でも、ユートは以前に言っていたじゃない」
「言っていたけど……」
「力の代償のことは、お姉ちゃんからも聞いたけど……」
「実際に体感すると大きいわよね」
エリーゼのショックが大きいのは、少しでも考えればリコリッタにも理解はできる。
知り合いから忘れ去られるという事は、どれだけ大きいことなのか。
実際、友人であるエリーゼがショックを受けている様子を見ているからこそ、逆に冷静になってしまっているリコリッタがいたから。
「(私って薄情なのかしら……)」
リコリッタは心の中で呟きながらも、これからどうしようと思考したところで、
「そこの二人」
話しかけられた事に対して、リコリッタは杖を手にしたまま、その場を飛びのく。
リコリッタの視線の先に立っていたのは、
「貴女は――」
「すまないな。知らぬ術式が展開されていたから見つけるのに苦労したが、妾の知り合いが、お二人と話をしたいと言っておるのだが、余裕はあるじゃろうか?」
「……たしか山崎殿の事務所にきた――」
「うむ。妾は、白亜という。お二人と話をしたいのだがよろしいだろうか?」
そう白亜は、二人を見て言葉を口にした。
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