第890話 数十億人の心不全という名の死者

「白亜。俺を元に戻すときに都も居たと言っていたよな……。都は無事なのか?」

「まだ目を覚ましていません」

「どういうことだ?」


 ベッドから立ち上がったあがり、外行きの服を着る。


「式神に意識を投影したのですが、結果、かなりの精神力を消耗し回復するまで時間が……」掛かるようですじゃ」

「掛かるということか? 命に係わる問題ではないんだな?」

「そうなります」

「そうか。――で、都は、どこで休んでいるんだ?」

「自宅で休んでいます」

「ふむ……」

 

 それなら、あとで都の見舞いにいくか。

 本当に大丈夫かどうかチェックする必要があるからな。

 部屋から出てリビングに到着すると、妹の胡桃がソファーで横になりながら携帯ゲーム機を弄っていた。


「ん? エリカも、まだいるのか?」


 部屋の壁にかけてある時計は、午前10時を指し示している。


「あ、マスター。おはよう」

「おはよう」

「お兄ちゃん、おはよー」

「お、おう。胡桃」

「どうしたの?」

「学校は?」

「臨時休校だよ?」

「臨時って何か病気でも広がっているのか?」

「ううん。世界中で原因不明の心不全が流行ったからって、その対応に追われていて、それで今日は世界中の教育機関はストップって電話が回ってきたの」

「書いてあった?」

「うん」


 胡桃がテレビのリモコンを押す。

 テレビが映り特番のニュース番組が映る。

 そこには、世界中で心不全により少なくとも20億人以上が死亡したと書かれていた。


――国営放送のNKHの伊角です。先日から世界中で発生している心不全による死亡事故、死亡を含めた件について解説させていただきます。本日はWHO所属の木下さんに来ていただいています。

――木下です。先日、発生した世界同時多発心不全について解説をさせて頂きたいと思います。


「心不全か……」


 思い至る節しかないな。

 冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップに注ぐと一気飲みする。


「マスター。心当たりでも?」


 俺の後ろをついてきていたエリカが興味ありな眼差しで俺を見上げてくる。


「ああ。俺が、瀬戸内海で戦ったことは、知っているよな?」

「知ってる。マスターが、神レベルと戦ったことは波動から感じられた」

「さすがだ」


 エリカの白髪を撫でる。

 俺と契約を交わしているエリカは、普通の神に匹敵する力を有している。

 そんなエリカであるからこそ、俺が神と戦ったことは肌で感じることが出来たのだろう。


「その、マスターと戦った神と、今回の世界中で起きている心不全による人類大量死は関係がある?」

「関係はあるな」

「……それは、ヤハウェ関係?」

「そこまで分かるのか?」

「うん。バチカンが壊滅したことが、その証拠。バチカンが神関連で壊滅したのなら、その原因はヤハウェ以外考えられない」

「なるほど……」


 宗教関係者なら、そういう思考になるのか。


「そうなると、もう心不全は沈静化した?」

「ああ。信者の力を使い切って消滅したからな。それに共だって、吸収されていた信者の魂も消滅。その結果が心不全という形になっただけだな」


 俺が異世界で神々を殺す前に行ったことが、結果的に逆転し他だけに過ぎない。

 数千年と言う長い年月、ヤハウェを信仰してきた連中が、その力を傘に好き勝手してきた結果、何億人も殺した歴史があり、ヤハウェが力を求めた結果、自分達の存在と命を代償に差し出しただけのこと。

 つまり等価交換だ。

 そして、結果的にヤハウェを俺は殺した。

 集められていた魂という存在は、ヤハウェと共に消滅。

 肉体を動かすための動力の一つであった魂を失った肉体は当然のことながら、活動を停止する。

 その結果が心不全で死亡。

 それだけのこと。


「そうなの……。でも、どうして私は――」

「エリカは、俺と契約をしているからな。だから、キリスト教を信仰していても、俺から力が流れるから死ぬことはない」

「そうなんだ……」

「辛いか?」

「ううん。何を信仰するかは個人の自由だし、その結果、死ぬのは個人の意思だから」

「そっか」


 しかし、異世界では1億ちょいの人間が死ぬだけだったが、地球の被害は想像を絶しているな。

 ネットで調べるかぎりでは、ヤハウェを信仰している宗教の総人口は50億人いるらしい。

 つまり20億人プラスアルファが心不全で死んだという事は、完全にヤハウェを信仰していたという信者は多くないということ。


 ――機能を停止した国は、ロシア、バチカン、イスラエル、サウジアラビア……。

 

 テレビの中のアナウンサーが、淡々と人口が激減した国々を読み上げていった。


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