第781話 都との会話(4)
「何を言っているんだ?」
そんな言葉がスルリと自分の口から零れ出たことに、俺は驚きを禁じえなかった。
――と、同時に俺は都から視線を逸らす。
「……だって! 変だもの! 優斗は、あの日! 千葉駅で、私に抱き着いてきた時に何か言っていたよね?」
「……」
「態度だって変だったもの!」
「……それは……」
「どうして、あの時、あんなに強く私を抱きしめてきた時に泣くような表情をしていたの?」
「………………き、気のせいだ」
「そんなことない!」
都が強い感情を乗せて俺の言葉を否定してくる。
「だって! 優斗は、ずっと私を! 私を! あの日! あの時以降、キチンと見てくれてないもの!」
「――! ――な、何を言っているのか分からないな」
「ねえ? 異世界に召喚されたのって、もしかして……わた――「そんなことはないっ!」――ッ!? ……ゆ、優斗?」
都の戸惑いを含んだ声色に俺は唇を噛みしめる。
「すまない……」
何をしているんだ! 俺は――!
こんな態度を取ったら、こんな遮り方を――、都の言葉を遮るような口ぶりをしたら、肯定しているようなモノじゃないか!
「ううん。でもね! 私……ずっと不思議だったから……。だから! 私は、謝らないよ! だって! 優斗を、ずっと見てきたから分かるもん! 理解できるもん! だって! 優斗は、いつも私と一緒にいる時は、ずっと! ずっと! ずっと! 悲痛な――、辛い顔をしてるもん!」
「……そ、そ……そんなことはない」
あほか、俺は――。
都に何せを見せたんだ……。
彼女には――、都には――、幸せになってもらいたいと思っていたのに……。
彼女との約束を守れなかった俺には、そのくらいしか出来ないというのに……。
どうして……、都が泣いているんだ?
「優斗」
「……」
「優斗!」
何度も俺の名前を呼んでくる都。
だが、彼女は俺の表情を読み取る術を持つようで、いまの俺の考えを読まれるのは何よりも怖い。
だからこそ――、
「ねえ! 私を見てよ! 何で! 私の後ろばかり見ているの! ねえ! 何で! 本当の私を見てくれないの! 私は、私だよ! ここに居るのが私なの! 優斗の幼馴染で――、神楽坂都だよ!」
涙声で強い口調だが、苦しそうなまでの辛そうな感情が乗ってくる都の言葉に俺は――、彼女の方を――、都の方を振り返ることが出来ない。
理由は、簡単だ。
――それは怖いからだ。
ハハッ――、何て様だ。
神々すら殺すと覚悟し、全てを捨てたというのに。
一人、自問自答し――、都の言葉に反応しなかった俺に対して、石畳を軽い音で踏みしめて都が近づいてきたかと思うと、雑木林の方に視線を逸らしていた俺の視界に入ってくる。
そこで彼女は、俺の目を真っ直ぐに見てくる。
「――な、なにを……」
いきなりのことに俺は視線を逸らそうとしたが、都が俺の頭を固定するかのように手を伸ばしてきて、俺は硬直した。
「逃げないで!」
「べ、別に逃げてなんて――」
「やっぱり異世界に召喚された時に何かあったんだ……。そうじゃなかったら、優斗が――、優斗が、そんな顔をするわけないもの!」
「白亜――」
俺は、白亜を呼ぶ。
途端に、俺と都の近くに白亜が姿を見せる。
「ご主人様」
「白亜、都を自宅まで送ってくれ」
「それは――」
「命令だ!」
「――ッ!」
俺の命令に白亜が都の傍まで近づく。
そして彼女の肩に手を置く。
「優斗? どうして! どうして! どうして何も答えてくれないの!」
「答えるも何もない!」
ビクッ! と、都が体を震わせるのが分かる。
やっぱり……駄目だ。
俺は、自分の小心ぶりが嫌になる。
守ると誓ったのに。
助けると誓ったのに。
俺は、また都を泣かせてしまった。
「何もなかった。それだけのことだ」
俺は都の腕を振りほどく。
「他には何もなかった」
背中を向ける。
そんな俺の背中に向けて――、
「私、分かるもん! どうして! そんな顔をして泣くような顔をして――、何もなかった! 何で、そんなことを言えるの! 答えてよ! 優斗っ!」
「白亜!」
「了解しました」
まったく動こうとしなかった白亜を叱咤する。
途端に――、白亜は小さく溜息をついたかと思うと一陣の風が巻き上がると共に――、都の「優斗っ!」と、言う言葉が聞こえてきたかと思うと同時に二人の気配が消えた。
――振り向くと、そこには、もう都も白亜もいない。
そんな光景に、俺は小さく――、そして深く呼吸をし――、
「もう、潮時か……」
そんな言葉が口から零れ落ちる。
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