第3話 襲撃 ①

 要がじっと見ている窓の先。

 四人の男が悠人たちのいるスポーツ用品店に近づいてきていた。

「荷物をまとめろ。奴らに気付かれる前に逃げるぞ」

 悠人と明菜は即座に事態を察した。あの男たちは危険だ、ということに。

 要は手早く登山用のザックに効率よく詰め込んでいるが、悠人たちは焦ってもたついてしまう。

「まだ距離はあるから慌てなくていい。忘れ物がないように落ち着いてな」

 ゆっくりと穏やかな言葉に、二人はいくらかほっとする。何とか荷物がまとまった。その間、要は散らかしたところを念入りに片付けていた。

「ねえ、あれって」

 明菜は気付いたようだ。近づいてくる男たちの正体に。

「ああ。避難所に戻るのが遅くなった理由のひとつだ」

 要が唇を噛みしめる。近づいてくる四人は、一週間前に八人で出かけた物資隊のメンバーの半分。金田、田村、五島、刈谷の四人。あいつらがやったことは絶対に忘れない。逃げ道のない倉庫に追い詰められた時、自分たちが助かるためだけに、俺たちを囮にしやがった。罠に嵌められ、死が迫る俺たちを尻目に、笑いながら逃げていった奴ら。あいつらが、大切な仲間を殺した。

 要の怒りが沸騰する。しかし、今すべきことは、あいつらに復讐することじゃない。

「準備できたな。裏から逃げるぞ」

 死んだ者は帰ってこない。今はこの二人を生かす。


 三十八歳、プロレスラーのような体格の金田剛志は、スポーツ用品店に入ると、その広さに感心する。

「なかなか広いな。ここなら目ぼしいものがいっぱいだ」

 金田たちの目的は、寝袋等のキャンプ用品や、武器の確保。要たちと同じだった。

「金田さん、やっぱりこいつですね」

 刈谷が金属バットを持ってくる。バカが。こんなものでカラスを殴ったら即死だ。すなわちお前も即死だ。単純で扱いやすいのはいいが、もう少し頭を使え。二十代後半の刈谷は、身体能力に優れ重宝する場面も多いが、クスリでもやっていたのかと思う程、頭が弱い。

 金田は、沖村がいないのを惜しく思う。考え方は合わなかったが、あいつの冷静な分析能力は貴重だった。物資隊が効率よく手に入れられたのも、沖村がいたことが大きい。

「田村、お前は使えそうな小物を集めろ。五島は食糧な」

 金田は二人に指示する。三十歳の調子のいい田村と、四十代半ばの寡黙な五島。この二人は理解が早くて助かるが、指示待ちなのが残念だ。長いものに巻かれるタイプの田村は、ご機嫌取りの使い走り、五島は時々何考えているかわからないが、二人とも俺に逆らうことはない。

 ふと、金田は違和感に気付く。匂いだ。微かに漂う鍋のような香ばしい匂い。少し前に誰かいた。

 金田は慎重に周りを窺う。どこかに潜んでいるかもしれない。どんな奴らだ。襲ってきたら返り討ちにしてやる。ぎらついた目で人が隠れそうなところを一つずつ確認していく。カウンターの下、試着室、トイレ。どこにもいないか。ん。これは。金田が見つけたのは、注意して見ようとしなければ見落としてしまうほどのわずかなもの。

「女だ」

 金田がニヤッと笑う。

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