第49話 思惑
「十二神が……集結した上に、伝説の四神まで……桜子の召喚に応えるとか……」
「なんて美しいのかしら。巻物の中にしかいるはずのない四神が……」
金の鬼を召喚する儀式にはいたが、如月を助けるでもなくいち早くその場を抜け出した弓弦と薔薇子は図書室の窓から呆然とその姿を見つめていた。
「だからあれほど忠告したんだ。鬼を呼び出すのは危険だと。伝説の四神まで召喚しなければならないほど危険だって事さ! そして桜子がいなければそれも出来なかった」
四天王をクビになった今、儀式にも顔を出さずに図書室でこもっていた尊が呆れたように言った。
「本当ですわね。あの巨大な四肢、妖気の強さ、確かに人間が太刀打ちできるモノじゃありませんわね。いくら霊能力が大きくとも、下位の川姫一体を使役するのが精一杯の如月様では無理でしたわね」
「今更、そんな事を、薔薇子も魂集めにずいぶん協力したじゃないか」
と尊が呆れたように薔薇子を見た。
「ええ、そうですわ。如月様なら出来ると思ってましたもの。でも……桜姫の生まれ変わりと言われる土御門桜子、彼女を見ると霊能力の高さが式神を使役する絶対条件ではないのだと思い知りましたわ」
「どういう意味だ?」
薔薇子はつまらなそうな顔をして。
「彼女は再生の見鬼、私は先見の見鬼。活かす用途が違いますから、私と彼女のどちらが優秀かなんて比べる事がむしろ愚か。私だってそうそう劣ってはいませんわ。でも彼女は十二神に慕われている。それは霊能力の高さではなく人柄。桜子は人として如月様より優秀なのですわ。ですから桜子の召喚に十二神が応える」
と言った。
「なんだよそれ。人として? 式神を使役するのが霊能力の高さじゃないって何それ。子供の頃から必死に修行したのは何だったんだ。馬鹿馬鹿しい」
弓弦があーああっと大きな伸びをして窓際から離れた。
図書室の木の椅子にどすんと座る。
「桜子には式神を惹きつける何かがあるのでしょうね。癒やしの気で式神達の傷を再生させるだけじゃなく。人と妖、でも主従というよりも彼らは友達みたいですわ。前世で位三位の赤狼が桜姫を守って爆死、そして二百年ぶりに再生したらしいですけど、他の十二神達は生まれ変わった桜子に一番に会うのは赤狼だと決めて、この十四年間、ずっと桜子を見守るだけに徹していたそうですわよ。妖にも友情のような絆がある、という事ですわ」
薔薇子は窓際に立ち、遠くで暴れている金の鬼とそれを阻止しようとする式神達を見た。
強大な金の鬼に土御門の人間は右往左往するしかなく、土御門で最大の権力と能力を誇り、一族の中では生き神のように崇められている当主の左京ですら金の鬼の前ではただの人間だった。
「化け物に友情? ほんと馬鹿馬鹿しい。あの赤狼っての、桜子と出来てるみたいだけど、気色悪い。化け物と恋愛なんて。アニメの見過ぎじゃない」
と弓弦が言った。
「そうかなぁ。土御門の十二神はずっと人間の側にいて一族の者と共に日本を守ってきた。彼らはただの化け物じゃないよ。とても理知的で、そして優しい、そんな気がするよ。とは言っても、俺もこの間までは桜子を餌に十二神を飼い慣らして、なんて企んでたけどね。実際、本性を現した彼らに囲まれてみろよ。あの恐ろしさったら、トラウマになりそうだ」
と尊が言い、薔薇子も、
「そうですわね。私達が扱ってきた悪霊祓いなんて、所詮元は人間ですもの。闇に落ちた人間の悪霊を祓うのなんて簡単だったはずよ。彼らは本物の妖ですものね。弓弦さんだって、赤狼に息の根を止められかかったんでしょう? あんまり舐めたお口をきいてるとパクッといかれますわよ」
と茶化した。尊はくすっと笑い、弓弦はぶすっと表情をしかめた。
そして薔薇子が椅子から立ち上がった。
「私、参りますわ」
「え、どこへ?」
「結界の応援にですわ」
「はあ? 馬鹿じゃないの、そんな危険な。あんな巨大な鬼が暴れる近くへ行って巻き込まれて怪我するだけさ!」
と弓弦が言った。
尊は薔薇子の真意をはかりかねて黙っている。
「あら、怪我なんてそんな間抜けじゃありませんわ。でも、今、十二神の前で良い見せ場を作っておけば、騒ぎが収まった時に薔薇子の式神になってもいい、という者が十二神の中にいるかもしれないじゃないですの。如月様の手前、皆が式神を持つのを遠慮しておりましたから、式神は余ってますわ。式神は百神もいるんですのよ。アピールしておけば高位の式神を持てるかもしれませんわ」
薔薇子の言葉に尊と弓弦もがたっと慌てて立ち上がった。
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