第41話 召喚の儀式

 同日、深夜、日が変わろうとする時間帯に如月は道場にいた。

 白い着物に白い袴をはいて、道場の真ん中に座していた。

 その横にはやはり白い装束を着けた桔梗が控えている。

 如月は集中するように目をつむり、神経を研ぎ澄ましている。

 鬼を召還する準備は出来ていた。

 尊が紐解いた鬼の召喚術の手順はすでに頭に入っている。

 あとは時刻を待つだけだ。

 目の前には山と積みあげられた白い球形の千個の魂。周囲を学園の生徒達が総動員して見張っている。中には中等部の愛美や高等部の修司もいる。

「如月」

 と声をかけられて、如月の肩がぴくっと動いた。

 道場の入り口に当主の左京が立っていた。その姿を見た生徒達はおどおどとした表情になった。 

 如月は目も開けずに、

「何でしょう、お父さん」

 と言った。

「金の鬼を召喚するのは中止しなさい」

「嫌ですね」

「正気か? 金の鬼はほぼ伝説。さらにそれを実現するために人間の魂を千個だと? 土御門の存在は悪霊、魑魅魍魎から人間を守る為にあるんだぞ? それを自らが人間を襲うなどと、嘆かわしい。お前はたった今、次代を解任する。一族からも破門だ!」

 当主の左京はたった今まで息子の無罪を願っていた。

 桜子を始め、尊、薔薇子、そして式神達が揃って事情を訴えに来ても、自分の目で確かめるまでは無罪を信じていた。心から信じていたのだ。

「金の鬼などいなくても、お前は充分、強く、そして賢い。土御門の未来を背負って立つに相応しい人間だった。何故、鬼なんだ?」

 如月はそう焦った様子もなく、「さあ」と言った。

「分かりません、僕にも。ただ無性に鬼に会ってみたいと思うようになったのは高等部くらいからでしょうか。尊が魂抜きの術を復元させたのも、薔薇子がその時には卜いで成功して、いくらでも魂を抜ける信者がいるという好条件が揃ってしまったのも一因でしょうか。僕は強い式神に憧れてました。お父さんのように十二神を使役してみたかった。子供の頃からそう思ってました。だから修行も頑張ったし、能力も上げた。そして念願の次代に任命されたのです。ところがどうです? 十二神最弱の銀猫ですら、僕の式神になるのを拒否した。こんな酷い屈辱はない」

「如月、式神も主と合う、合わないがある。川姫を使役しているではないか、それは川姫がお前に合うからだ」

「あんな後ろから数えた方が早いくらいの落ちこぼれが?」

 この時、川姫は道場の屋根の上にいた。

 離れていても如月の声は聞こえており、川姫は悲しそうな顔をしていた。

 確かに自分は能力も低いし、位も低い。

 だが如月には一生懸命仕えてきたつもりだった。

 川姫は如月の式神になれて嬉しかったからだ。まだ中等部に入ったばかりの子供だが虚勢を張って次代になろうと努力している姿を見て、必ず力になろうと思った。いつか立派な当主になるように一生懸命やってきたつもりだった。次代の重責に押しつぶされそうな時は励まし、修行が辛くて泣いてる夜には側に寄り添って。

「やっぱあたしみたいな低い式神じゃ駄目だったかねぇ……はははーだ」

 川姫はそっと姿を消した。

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