第24話 陰謀

「術者を倒す?」

「そうだ、術者が死ねば術は解ける」

「え、それって」

 桜子は赤狼と紫亀を見た。

 赤狼はそうでもないが、紫亀は少しばつの悪そうな顔をしている。

「そうなんや、桜子ちゃん、如月をやっつけなけりゃあならんのや。しかしなぁ。今の世の中でそれが出来るか?」

 紫亀は頭をぽりぽりとかいた。

「俺は出来る」

 と赤狼が言ったが、

「だ、駄目よ、赤狼君!……死ぬって事は殺すって事でしょう? 赤狼君、駄目よ!」

 と桜子が言った。

「紫亀先生、術者が死ぬ以外に方法はないんですか?」

「如月が自ら術を解けばええ。問題なしや。如月がそれをやるならな? 解決やで」

「御当主の左京様に叱ってもらえば?」

 と桜子は言った。

「そしたら如月様だって……学園の先生を犠牲にしてるんだもの。左京様だってきっとお怒りになるわ」

「わしらはそれでええけどなぁ。果たして当主が如月を罰せるかな? 大事な大事な次代様やで。もしかしたら当主も込みの話かもな」

「まさか……」

「如月が人間の魂を集める目的は何やと思う?」

「……それは……?」

「鬼の呼び戻しか」

 と赤狼が言った。

「鬼?」

「わしもそう思う」

「鬼って何ですか?」

「鬼は鬼や、赤鬼、青鬼、金の鬼」

 桜子はぶるっと身体が震えた。全身に寒気が走ったのだ。

「鬼……」

 と現代に鬼なんて、と言いかけて桜子は口を閉じた。 

 目の前に赤い狼と紫色の亀がいるではないか。

 今は人に化けているが、変身すれば巨大な狼と亀だったのを桜子は見たはずだった。

 それならば鬼もいるかもしれない、と桜子は思った。

「何故、鬼を?」

「鬼を式神に出来たらめっちゃ格好ええやろ」

 と紫亀が言った。

「え、格好いいからですか?」

「人間のやる事なんかそんなもんやで。土御門十二神の一の位には闘鬼ちゅう金の鬼がいてるんやけど、赤いのんに勝るとも劣らん我儘な鬼でな。安倍から土御門まで千年の時を筆頭式神の地位にいてるのに、その間に主を持ったのはただの一度。気に入らん主には見向きもせん、姿も見せん。人間の間ではほんまにいてるんかどうかも疑わしいって言われてる伝説の鬼や。まあでも存在は間違いない。わしらも滅多に会わんけどな」

「その鬼を呼び出すのに、人間の魂がいるんですか?」

「人間の浅知恵や。そういう文献が残ってるのは確かや」

 桜子は赤狼を見た。

「京の都に出没する金色の鬼は牛馬も人も区別なくなんでも喰らいつくす鬼。人体だけでなくその魂もが嗜好品で鬼に出会って生きて戻った者はいない、と記されているのを読んだ事があるぞ。まあ、昔は人や獣だろうが怪異のモノだろうが腹に入ればなんでも良かったからな。あの鬼は」

「赤狼君、知ってるの? その金の鬼を」

「ライバルやもんな」

 ぎろっと赤狼に睨まれて紫亀は首をすくめた。

 その動作がいかにも亀が首を引っ込める時の動作に似ていたので桜子はつい笑った。

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