第42話 ファイナルステージ3
『それではサードバトルの参加者は前へ!』
立ち上がり、イヨリは言った。
「勝ってくるね」
やべー超かっこいい、今のは普通俺の台詞だと思うんだがどうでしょうイヨリさん。
向こうからは当然だが華やかな美少女達の中、一人だけ異彩を放つイケメンの巨人生徒会長、大和(やまと)猛(たける)さんが立ち上がる。
セカンドステージみたいに前のめりで走らず直立すると、日本人離れした身長がより明確になって小柄なイヨリが比較対象として隣にいるとそのデカさが際立つ。
二人が揃ってスタジオ中央に並んでいると完全に親子、それもイヨリが幼稚園児くらいの幼女に見えてくる。
まあイヨリは幼稚園児よりも可愛いけどな。
『ルーレットスタート!』
回り始めたルーレットが次に止まったのは一〇番。
『一〇番! 早い者勝ちボタンです!』
床でぐったりしているアサミに代わってタクミが続ける。
『ルールは単純、お二人には早押し対決をしてもらいますが使っていいボタンは一つだけ、内容としてはフォースステージを一人で行うだけと考えてもらっても構いません』
説明している間にボタンが置かれたテーブルが二人の間に運ばれた。
『違うのは選手両名はテーブルの目の前に立つ事、そして両手は下ろした状態で問題は私が読み上げ四点先取したほうが勝ちということです』
『では歴史研究会チーム、コセキ選手、出題範囲をどうぞ』
「古代史でお願いします」
さっきの戦いもこちらが負けた事で出題範囲はこっちが決めていい事になるけれど全国模試三位の実力を持つタケルさんならば古代史に限定してもおそらくイヨリと遜色ない知識を持っていることだろう。
それにフォースステージで証明済みだがタケルさんは強い、強いなんてもんじゃない、身体能力が明らかに異常過ぎ過ぎる。
学年が違うから噂を聞いただけだけどタケルさんは体育の授業を全てふざけながら運動部を圧倒しているらしい。
でも実際、中学の時の体育祭では百メートル走で両手ピースサインでバンザイをしたまま陸上部を追い抜かしてゴールしたり、綱引きではチームの半分がサボったにも関わらず勝利しそのまま俺のクラスと一緒にダブル優勝していたのを俺は見ている。
この戦い、荒れるぞ……
『第一問! 古バビロニア王国の王、ハンムラビ王が作ったハンムラビ法典の第二〇〇条の内容は?』
読み上げる途中で突きだされる二人の右手と左手、同時に荒れ狂う衝突音、それが間髪いれずにもう片方の手でもやるもんだから戦車の主砲の弾を空中衝突させたような音の二連発だった。
小柄で細身の少女の小さな手と二メートル超えの巨人の巨大な手がボタンの上で組み合い、壮絶な力比べを繰り広げていた。
ちなみに綱引きが俺とタケルさんのクラスのダブル優勝だったのは決勝戦でイヨリのいる俺のクラスと綱引きをしたら綱が千切れたからだ。
代わりの綱を用意したり切れた綱を結んで何度もやり直したがやり直した数と同じだけ綱が千切れたので止む追えずダブル優勝となった。
『これは凄い!! こんな力比べなんて番組史上初!』
『ていうかタケル選手と互角のイヨリ選手が凄過ぎる! 二人の体格差は大人と子供以上と言ってもいいぐらいです!』
いつのまにか復活したアサミ司会者が鼻息を荒げる。
客席からも驚愕の声が次々に上がり会場全体が騒がしくなる。
まあ実際大人と子供ってよりも大人と幼児ぐらいの差があるよな。
アリは自分の五〇倍の重さの物を運ぶらしいけど今のイヨリはまさにソレである。
だがそんな力比べはそう長く続かず、イヨリは右腕のヒジを曲げるとそのまま落としヒジでボタンを押した。
そしてボタンが真っ二つに割れた。
「もし人が、その人と同格の人の歯を折ったときは、その歯を折られる」
『……正解です』
「やったー」
イヨリは可愛く笑っているが司会者や観客は無言のままにイヨリを眺めていた。
まあみんなの気持ちは分かるよ、こんな状況でも冷静に新しいボタンを持ってくる係員さんは優秀だなあ。
「やるねえイヨリちゃん、おにいさんがまさか先手を譲るとはね」
「へへ、さすがにこっちはリーチ掛けられてますからね、全力でいきますよ」
「幼稚園の頃からイヨリちゃんとは決着がついてないからね、おにいさん頑張っちゃうよ」
口ではそう言いながら、今のタケルさんの目は燃えていない、何故だろう。
『では第二問! エジプトの王に仕え、神聖書巻を示されトートの卓越性を見た、と評された大臣の名前は?』
轟く爆音、こんな音はボクシングのヘヴィ級王者決定戦でも聞けないだろうな。
だが今度の力比べ終了はさらに早く、イヨリが腕はそのままに頭突きでボタンを潰したことですぐに終わった。
「アメンホテプ」
『…………正解です』
コラ、女の子が頭を打ち付けるとは何事だ、帰ってきたらその可愛い顔を保護する必要性をとことん教えてやらねば。
そしてまたボタン壊しちまって、ヒデオの持つ三〇個のボタン全てを犠牲にして手加減を覚えてもヒジ加減と頭加減までは覚えられなかったか。
『第三問! オリンポス十二神の中に冥界の王であり大神ゼウスの兄であるハデスが入っていない理由は?』
爆音再び、二人の手の平が激突して、続いてイヨリが頭を振り下ろすとソレに合わせてタケル先輩も頭を突き出し二人の額がぶつかり互いの頭が弾かれる。
これはタケルさんからの挑戦だ。
頭を出しても頭突きで止める。
すかさずイヨリはまたヒジで押そうとするがヒジを曲げられないよう手は最初から高めの位置で固定されていた。
ここはさすがに圧倒的な身長差がネックになった。
「さーてイヨリちゃん、おにいさんとどっちが先に力尽きるかな?」
「問題なし♪」
そう叫んでイヨリは体ごと落とし、そして……胸でボタンを押した。
押したぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!
客席も俺と同じく尋常じゃない盛り上がりを見せる。
アサミが絶叫している。
神よ! 三秒後地獄行きでいいから俺をあのボタンにしてくれ!! マジで頼む!!
一時の快楽の為に人生を棒に振っても俺は後悔しない男だ!!
「答えはハデスさんが辞退したから」
『………………せ、正解です』
「マリー・アントワネットも真っ青ね…………」
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