第7話 幕間(あい)

 あの大城との夢の様な一日が終わり3日が経った…そして、いつも通りの夏休みの一日を過ごしていた。


 普通なら何ともないんだけど、あんなに楽しい事が重なると今が退屈に思える。それに大城と回る夏祭りが楽しみ過ぎて待ち遠しいのと同時に緊張もしていた。


「腹減ったな…冷蔵庫に何か入ってなかったかな?」


 しかし、冷蔵庫の中身には飲みかけのエナジードリンク、ストックされた炭酸類だけが入っていて、肝心の食材が一切無かった。


「仕方ない、買いに行くかな…」


 俺は憂鬱な足で洗面台に向かい、顔を洗い着替えて家を出た。


 せっかくなのだから少し遠くのショッピングモールにでも行こうと思い、俺は歩き出した。夏の日差しが辛い、7月も終盤で明日から8月になる。やはりドンドン暑くなってる気がする。


 地球温暖化に付いて考えた事も無かったが『こんな暑さが年中続くのは嫌だな…』と思いつつ、部屋のエアコンは1人でせっせと働いていた。


 それから徒歩30分後、ショッピングモールgavinに着いた。外は36℃、人肌の温度を越していた…──俺は急いでgavinの中にあるスーパーに駆け込んだ。涼しい…


「あれ?江夏じゃん、何してるの?」


 そこには宇佐美が居た。白いうさ耳パーカーに身を包んだ宇佐美は笑顔で俺に駆け寄って…──タックル!?


「痛っ、何すんだ宇佐美!」


「いやぁ良かったねぇ!大城さんと上手くいってるみたいじゃん!」


 ニマニマと宇佐美が笑いながら言う。確かに最近は上手く行き過ぎてる気がする。


 でも、俺が花火に大城を誘えたのは、宇佐美が応援してくれてるんだから頑張らなきゃっという気持ちが強かったから勇気を出せたんだ。


 実質、宇佐美のお陰だと思っている。調子に乗るから宇佐美には絶対に言わないが、コイツは本当に良い友人だ。


「でさ、今から暇なら一緒に遊ばない?久々にさ!」


 ビックリした、今まで遊ぼうと言っても俺達を気付かって遊んでいなかった宇佐美が自ら「遊ばない?」かと誘ってきたのは俺にとって意外な事だった。


「あぁ、良いけど宇佐美、何か買い物してたんじゃ……」


「ぅうん、江夏を見つけたから着いて来ただけだよ!それより江夏は?」


「俺は帰りに買い物するよ。今日は久しぶりに遊ぼう」


 そういうと宇佐美はニッコリと笑って、腕を掲げる。


「て事で、先ずは腹拵えだ!」


 本当は今から何処に行くかを尋ねるつもりだったが、先に宇佐美が目的地を指定してきた。起きてから俺は何も食って無かったので異論は無かった。


 俺たちはモール内にあるファミレスで食事を取る事にした。


「ボク、カツカレー!江夏は何にする?」


「お前、朝からカツカレーって…いや、俺はオムライスで」


「江夏は本当にオムライス好きだねー!」


 宇佐美はニコニコしながらメニュー表を捲り、店員を読んだ後に食後にパフェやらケーキやらを頼んでいた。…俺は流石に食えないと、コーラだけ追加させてもらった。


「店内で言うのも何だけど、こういう店のコーラって高いのに普通のと味変わらないよな……」


 俺は店員が注文を繰り返し、オーダーを伝いに戻って行った後で、他の店員に聞こえぬ様に静かに喋った。


「そりゃそうでしょ、だって同じだもん。というが氷入れてる分、味薄くなるしね」


 宇佐美は声を気にせず、いつも通り話していた。


 その後も色々と話した…宇佐美が藤里とイベントに参加した話や宇佐美のプライベートの話を聞きながら世間話で盛り上がった。


 その後、俺達は食事を取り終わり、外に出てから次の目的地を決め始めた。


「宇佐美、何処か行きたい所とか無かったのか?一応、宇佐美にも何か用事があったんだろ?」


 宇佐美の家が何処にあるかは未だに知らないが、俺の住むマンションや大学から差程離れてない筈だ。…つまり用事が無いと俺の様に、この離れたショッピングモールには行かない筈なんだ。


「あぁ、ボクは別に今日じゃなくても良いけど…なら、付き合ってくれるかな?」


 …と言って俺が連れて来られたのは服屋さん。しかも、俺とは無縁のレディース…左は下着コーナー、右はファンシーな服が並んでいる。いや、目のやり場に困るんだが!


 俺は宇佐美の後を取り敢えず着いて行っていたが、流石に宇佐美がショッピングコーナーに入った途端、俺の足は止まった。


「ん?どうしたの?おいでよ」


「おいでよ」…じゃねぇ!普通に入りずれぇだろ!マジで気付かってくれよ!


「早く江夏、せっかくなんだから一緒に選んで!」


 …選ぶ!?それって…宇佐美の服を俺がって事!?


 そんな俺の緊張も他所に、後ろを歩く俺を気遣う様子もなく、宇佐美はスタコラサッサと服のコーナーを通り過ぎてから生地のコーナーへ。


「宇佐美、コレって……」


「うん、冬のイベントで着るコスプレ衣装、自分で作ろうと思ってさ。藤里くんも作るみたいだし」


「でも、今から作るのか?それ……」


「うん、早めが一番!時間掛かるからね!…──で、どっちの生地が良さそう?」


「いや、俺に聞かれても衣装作りの事なんて分かるかよ!」


 …というか、完成版すら見てないのに…なんなら藤里と行けよ。


 まぁ、適当に答えておいても結局は宇佐美が好きな方を選んでいた。俺に聞く意味あったのかよ…


 その後は久しぶりに二人でゲーセンで遊んだりして暇を潰した。


「江夏、敵!ゾンビいるって、そこそこ!」


「うわぁ!?このゾンビ急に走り出してくんなぁ!」


「ぎゃぁははっ!江夏、声ぇ!あははっ!」


 ゾンビ撃ち殺すやつは俺が絶叫し過ぎで終始、宇佐美が笑っていた。くっそぉ…


「江夏、アームもう少し右だよ!回して!」


「落ち着けって宇佐美!落ち着けって宇佐美!宇佐美、落ち着けって!」


「お前が落ち着け!」


 目当てのゲーム機の鍵が取れた時は二人でハイタッチした。


「しゃあ!やったぞ!宇佐美ぃ!」


「いぇい!江夏、やったね!」


 最初は宇佐美に譲ろうとしたが、家に置く場所が無いからと遠慮された。


 それからは二人でベンチに座って話した。まぁ、内容はと言うと…


「でも江夏、大城さんの事、良く祭りに誘えたよね」


「あぁ、宇佐美がせっかく応援してくれてるから、諦めたくなかったて感じかな?」


「諦めようとしてたの!?キレるよ!脈アリじゃん、どう見ても両思いじゃん!」


 キレるか…そうだよな、下手したら大城は宇佐美の恋敵…──いや待て、いつまで俺は引きずってんだ。


「まぁ、だから…祭りの時に大城に告ってみようと思う」


「うぅ、長かった…いや!まだ安心できない!最後まで気抜くなよ!」


 いや、そんなに長くないだろ?と思ったし、気を抜くつもりなんてない。なんならメチャ緊張してるぞ俺は…


 ただ、宇佐美が俺と大城が両思いだと言ってくれて少し安心できた。


「あっ、そろそろ帰らないと!江夏も店閉まる前に買い物済ませろよ!」


「えっ、もう帰るの?」


 宇佐美は何かを思い出したかの様にパーカーのうさ耳を揺らしながら走り出した…かと思うと、立ち止まり振り返った。


「大城さんと付き合ってからも友達でいてな!後、そのゲーム機いつか触らせてな!」


 そう言って宇佐美は俺に手を振り、宇佐美は夕日の中に消えて行った。…当たり前だろ、宇佐美が何を心配しているかは知らないが…俺と宇佐美はずっと友達なんだ。


「さてと、買い物行くか……」


 俺は宇佐美と顔を合わせたスーパーに入り、食材を調達していた。


「あれ?江夏じゃん、買い物来てんだ」


 振り返ると後ろにサッカーサークルの菅原明智すがわら あけちが立っていた。


「あぁ、そうだけど菅原、お前ん家ってこの辺だったけ?」


「いや、俺一人暮しだけど実家がモールの近くでな。お盆玉貰いたかったし調度良かったわ」


 今、聞き慣れない単語が聞こえた…『お盆玉』?ってなんだろう。


「まだ盆は先じゃない?」


「親が帰って来いって煩くてよ、仕方なくな…」


 俺の親なんて帰って来んなとまで言うのに…


「それよりお盆玉って何?もしかしてお年玉みたいにお金貰えるの?」


「そうだけど、お盆玉無いの?」


「無いどころか、そんな単語初めて聞いた」


 何ならお盆玉無いの?って聞かれたのも初めてだよ。


「今まで皆んな貰うもんだと思ってた…そうか、江夏の家はお盆玉無いのか」


「いや、俺も良く分からんから…貰ってないの俺だけかもな」


 まさかの買い物中の菅原と出会し、お盆玉の話もしながら買い物を済ませた。


 菅原と別れてから家に着いた頃には、もう19時半を過ぎていた。


 俺は買ってきた食材で飯を作り、飲みかけのエナジードリンクを飲みながら色々と考えていた。…大城の事、宇佐美の事、サークルの事やこれからの事も…──。


 後、1週間で約束の日だ。俺は飲み終えたエナドリ缶を音が鳴る様に置き、瞼を閉じる。


 俺は大城に告白する…──宇佐美に背中を押されたんだ!絶対に失敗したくない!


『行動せずに後悔するのは、絶対に嫌だから!』

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