1-6
あれからどのくらいたつのだろうか。一週間は過ぎている。いつになく静かな夜のように思えた。タバコに火をつけて、原色が点滅する窓を見ている。
あの夜のことを思いだしていた。
電気もつけずにキッチンのテーブルにすわって考えている。
前ぶれがあったわけではない。それでもあの時は思い当たることが次々と浮かんだ。僕が気にもとめていなかったことばかり。
「ねえ、あなた。浮気したことある」
ベッドの中で突然あいつが話しかけてきた。
「いまのところは」
「そう」
別にしようと思っていたわけではない。
浮気なんて考えたこともない。でもあの時はそう言えなかった。たとえば温泉場に行って、ちょっと遊ぶのは浮気になるのか。酔った勢いでフーゾク店に入るのが浮気になるのか。ずいぶん経ってからそんなことを考えてみたりもした。
「フーゾクは浮気になるの」そう聞けばよかったかな。
「あなたそんなお金持ってないでしょう」
そのとおりだよなあ。
「貢がせるタイプでもないし」あいつのそんな声が聞こえてきて、満足そうに微笑む顔が浮かんだ。あいつはあの時、自分のことを言っていたのだろうか。
「ねえ、あなたは何になりたかったの」
「そうだな、私立探偵とか」
「あなたが」
「おかしい」
あいつの考えていることはすぐにわかった。すっかり相手に見透かされてしまう人間が私立探偵なんて出来るはずがない。
「シャーロック・ホームズ」
「エルキュール・ポアロ」
「それなら何となくわかる」
多分見ためだけで判断している。僕がフィリップ・マーローやサム・スペードになれるわけがない。あいつはいったい何になりたかったんだろう。ニヤついているだけで答えてくれなかった。
少なくても僕のようなサラリーマンの嫁さんではなかったと思う。
「子ども欲しくないの」
「まだいいんじゃない」
でも本当はそろそろいいかなって思っていた。
「やけにしんみりしてるね。ウイスキーのオンザロックなんか飲んで」
いつのまにかフミちゃんが部屋の中に入っている。
「仕込みは終わったの」
「終わった」
「ヒマしてるなら下の店手伝ってくれないかな。どうせ依頼なんてないんでしょう」
「まあね」
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