恋は酔わないうちに(10)

 勇気は目が覚めた。


(寝てたのか。今は何時だろう。どれくらい寝てた?なんだか変な夢を見た。たしか、自分に殺される夢)


 起きあがろうとしたとき違和感があった。身体が小さく、四つ足で立っている。


(えっ、俺は猫か?それに、ここは道路)


 次の瞬間、勇気は車にはね飛ばされた。身体がアスファルトに擦りつけられた。激しい痛みと息ができない苦しみが永遠と思える時間続いた。身動きがとれず、痛みと沈む呼吸の中、意識が遠のいていった。


 再び目が覚めた。勇気は身体を眺めた。猫になっていた。


(やはり俺は猫だ。ここは・・・・・・)


 勇気は辺りの景色を眺めた。川沿いにある公園のようだった。どこか見覚えのある風景に見とれていると、不意に抱き上げられた。驚いてもがくけれどガッシリと捕まれて離れることができない。次の瞬間、勇気は川に投げ込まれてしまった。冷たく流れの速い川で、勇気は溺れながらも必死に泳ぎ岸から這い上がろうとしたが、棒きれで突き落とされた。もがき苦しむ勇気めがけて石が飛んでくる。


「痛い!俺は何もしてない。やめろ」


 必死で叫ぶ勇気に石は次々飛んでくる。水を飲み、もがき、身体が冷え、力つき、溺れていった。川に流され、冷たい水の中に身体が沈んでいった。意識が遠のいていく。


 目を覚ました。猫であることは分かっている。怯えながらも周りを見渡した。檻のなかだった。しかも、勇気だけではない。他にも多くの猫がいた。子猫から年老いた猫まで。黒、白、ぶち模様、三毛もいる。なかには外国の血統たしかな猫までいた。だが、どの猫も大人しく怯えていた。自分と同じように震えている。


(なぜ?ここはどこだ?)


 勇気は辺りを観察した。まるで囚人のように入れられた猫たち。四畳ほどの広さの部屋に十五匹ほどいた。どの猫もあきらめと怯えた目をしている。五匹の子猫が必死で鳴き叫んでいる。勇気は懸命に母猫を呼ぶ子猫をなだめた。


(この部屋は、まさか・・・・・・)

    

 勇気は部屋の状況と周りの雰囲気で察した。


(俺たちは殺される)


 そう考えた瞬間、現実となった。扉があけられ、マスクをした人の手が次々猫をカゴに放り込む。鳴き叫ぶ子猫もオモチャを放り込むように入れられた。別の部屋に移される。檻ではない、ガラス窓のついた分厚い扉の狭い部屋に押し込まれた。どの猫も力なく震えている。みんな察している。勇気は鳴き叫ぶ。


(あけろー、子猫もいるんだぞ)


 ガラス窓に飛びつくがビクともしない。音もなく空気が変わるのが分かる。苦しくなる。二酸化炭素が部屋に放出されたのだ。周りの猫が苦しみながら倒れていく。勇気も苦しくなる。子猫が痙攣している。瞳孔どうこうが開いて苦しそうにあえいでいる。それでも母猫を呼び鳴き叫ぶ。そのせいなのか口から血を吐き出していた。勇気は近づいて子猫の顔をのぞき込んだ。必死で母を求めながらその目から光が失われていく。どの猫もまだ微かに生きている。長時間苦しみ、力なく喘いでいる。そして動かなくなった。


(なんだよ!一瞬で死ぬんじゃないのかよ……どうして最後まで苦しまなきゃいけないんだ。こいつらが何をした)


 身体は動かず苦しいのだが、なぜか勇気の意識はあった。扉は開けられ、死骸はベルトコンベアに置かれた。どの猫も安らぎではなく苦しんだ顔をしている。コンベアが動き廃棄ボックスに放り込まれた。勇気の意識も薄れていった。


(俺たちは、ゴミなのか)

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