恋は酔わないうちに(4)

 勇気と恵美は居酒屋で食事をしていた。


「もっと気の利いたところがあるだろうに」 と言う勇気に対して恵美の方が希望したのだ。


 恵美はシーザーサラダと鯛のカルパッチョを肴にして、小さなグラスに冷酒を注ぐと一気に飲み干した。勇気は呆気にとられ、コーラを啜った。


「で、ホープ君が夜な夜な出て行き買い物をすると」


 恵美は話を素直に聞いていた。勇気は、カード明細のこと、ホープを尾行したこと、ホープが人になった話をした。


「猫が人に化けるって事、よくある話よ。この仕事をしていれば案外多く聞くわよ。ってやつね」

「猫また……」


 勇気はグラスを空にしたのでお代わりを店員に頼んだ。恵美は、店員が離れると話を続けた。


「だけどね、猫が買い物するなんてあり得ないでしょう。なになに、どうやってカード使うの?ニャーンて肉球でサインするの?」


 恵美は猫のようなポーズをしたあとに、鯛の身を口にしてグラスを空にした。豪快に見えるが、どの仕草も下品ではなくむしろ色気があった。


「あのなあ、少額の買い物ならカード決済にサインも暗証番号もいらない店が多いんだよ」


 勇気は盛られたサラダを口に放り込んだ。


「ふ~ん、そうなんだ。勇気は物知りだね」

「お前が世間知らずなんだよ。猫またっていう線があるなら今度の金曜、都合が合えば一緒にホープを尾行してくれないか」

「あっ、それいいね。なんだか面白そう!」


 恵美は目を輝かせて冷酒を飲んだ。その反応に心が軽くなった。こんな話をカウンセリングでしても妄想癖で片づけられるが、恵美は素直に話を聞いてくれた上に、提案にも前向きに応えてくれた。冗談であっても勇気にはすごく有り難かった。 

 

 

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