八 名月

宅古揺燈影

風聲去北池

水凝明月夜

精思獨吟詩


宅古びて 燈影揺れ

風聲 北池に去る

水は凝る 明月の夜

精思して 獨り詩を吟ず


 築十年も経てば、あちこちに不具合があるのが目につく。気をつけておかないと、蛍光灯の明かりまで弱まり、不自由をすることにもなる。借家と違って、自分の家には管理の責任がついて回る。

 さきほどまで風の音がしていたが、ようやく静かになった。北風は、そのまま寒い北の池の上に去っていったのだろう。寒風は寒風のまま、冬の証を立ててほしい。だが身の回りで吹かれては、寒くて困る。

 水に触れれば、身を切るような冷たさだ。半ば凍りかかっているような気もする。風の止んだ外は、冷たく澄んだ空気。空を見れば、月は明るく照らしている。澄んだ空気のお陰で、月の光も冴え冴えとしている。


 まとまらぬ想い見下ろし冴ゆる月


 辺りはすっかり静かになった。こんな夜は、自分の気持ちを素直に表現してみたくなる。「お月様、こんばんは」と、漱石の描いた猫のようにおどけてみたくもなる。この心境を、どんな詩にすればいいのだろう。

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