三 仙丹
風止凍雲留
月輪照海寒
孤老竟何之
倚杖願仙丹
風止みて 凍雲留まり
月輪 海を照らして寒し
弧老 竟(つい)に何(いづ)くにか之(ゆ)かん
杖に倚りて 仙丹を願ふ
海辺の田舎町にいると、夜、寝床にあっても海鳴りを聞く。遠く微かに広がる波の音は、深い眠りに誘うとともに、海の彼方への憧れもまた、かき立ててくれる。幼い頃から、一人ぼんやりと海を眺めるのが好きだった。
冬の夜、温かな布団にくるまって聞く海鳴りは、ふいに聞こえなくなることがある。風が止んだのだろう。今夜は満月。月の光が身を照らし、静かにきらめいている様子が思い浮かぶ。
定年を間近に控え、今までの来し方を振り返る。さまざまな出会いがあった。ときには迷惑をかけ、疎まれたこともある。そんな失敗も含め、全てが「自分」である。この先、どんな「自分」になっていくのだろう。
来し方や凍える手にも杖の欲し
感謝も後悔も、永遠には続かない。全てが移り変わるのであれば、その移り変わりを切り取って愛でることができる視点が欲しい。この先、どんな「自分」になるのか。仙人ならざる身には、分からぬ問題である。
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