第十話 巨星と双星 カフィニッシュ基地防衛戦
■
その開戦を、カフィニッシュへ奇襲を働くシヴァ軍部隊にあって、やや後方から見ていた男がいた。軍用の大型飛行機の司令室で、座り心地の大して良くない、大振りな椅子に腰掛けている。
「……あれがワーズワースの新しき双星か」
アーリアルとザクセンがそう呼ばれたのは、この時が初めてだった。そう長く呼ばれ続けたわけではなかったが。
呟いたのは、漆黒の軍服に身を包み、黒い髪をオールバックにした、精悍な顔つきの若い男だった。
刃物のような視線で、レーダーに映った二機のレグルスを見ている。
この軍用機の視界スクリーンには、空しか映っていなかった。サントクレセイダとシヴァの両国とも、現在の兵器のほとんどは、機体前面に巨大な窓ガラス状の板が張られていても、それはただの強化ガラスではなく、外界の風景を映し出すモニタースクリーンになっている。
男の隣に侍っていた年配の将校が、そっと男の耳に口を寄せた。男は、大声を好まない。
「お気になりますか、キルティキアン少佐。確かにこの二三戦、あの二機は目障りに手柄を立てているようですが」
「多少な。まるで気にかけないというわけにもいくまい。何しろ、この奇襲まで読んでいたわけだからな」
ふん、と将校は鼻で笑う。
「ですが、無邪気にまろび出てくれてきたお陰で、ここで二機とも葬ることができます」
「おれがおらんでもか」
「少佐に、このような小競り合いにお出ましいただくわけには参りません」
「指揮くらいは取らせんのか」
「昨日まで、連戦続きだったのです。部屋でお休みいただきたいくらいですな」
そう聞いて、キルティキアンはしかし、眉根を寄せた。
「俺の
「ギルティキアン少佐!?」
「大声を出すな。……万一の話だ。あの、黒い方に乗っているパイロット、何と言ったか?」
「は。黒い方は、ザクセンですな。ザクセン……」
「フウ、か」
「……はっ。む、我が軍の部隊が接敵します」
「現地の地面は、森だったな?」
「はっ。空中戦になると思われますが、地面が何か?」
「いいや」とキルティキアンは、含み笑いする。
■
ザクセンは、苦戦を覚悟していた。
いくらレグルスといえど、数の不利は単純な機体の性能差でそうそう覆せるものではない。
ここまでのワーズワースの圧勝は、戦術に寄るところも大きかった。ザクセンが、圧勝を演出するため、意図的にそうした。
だが、この状況では軍略の用いようがない。
最善なのは、敵に包囲されないよう、各個撃破で早々に数を減らすことだった。
だから、確かにアーリアルにはそう伝えた。
しかし。
「一体目えっ!」
広大な森林部の上空で、アーリアルが気合いを吐くと共に、白いレグルスが、左手の甲から出したビームエッジを振り立てて、敵の
無駄がない、しかし単調でもない。その鋭い動きに
敵が多勢なので、
だが、それを一瞬も躊躇せずに実行し、しかも成功させるアーリアルに、ザクセンは改めて身震いした。
「僕が、本当に君と互角なのか、疑いたくなるね。……通信、アーリー、そのまま無理せずに、手が届く奴だけやっつけてくれ!」
「了解!」
アーリアルは、次の
近接戦闘が得意な
一方、シヴァの残り九機は、混乱に陥りつつあった。
「囲め、囲めえ!」
「囲んでしまえば自動的に勝てる、縦横じゃないぞ、球だ、訓練通り球にして包むんだ!」
しかし、二機のレグルスの位置取りが絶妙で、一方を狙えばもう一方が包囲の外に出てしまう。
時折レグルスは肩部バルカンを放ってきており、これは離れていれば多少当たっても
それに気を取られているうちに、また
包囲戦術は、遠距離用機体の砲撃がなくては成立させるのが難しい。
しかしそこを、離れた死角から、
案の定バルカンで
アーリアルは、「次っ!」と三体目の
狙われた
しかしその時、白いレグルスは左手の甲にビームエッジを出したまま、右手に
アーリアルが叫ぶ。
「死線に、自分から入るような戦士じゃ! ――水平射、三連」
ここまでで、既にシヴァの奇襲部隊は半数に減らされていた。
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